思想文化学 倫理学専修

児玉 聡 教授
倫理学、応用倫理学
マイケル・キャンベル 助教
道徳哲学

倫理学専修は、1906年の京都帝国大学文科大学創立時に設けられた6講座のひとつであり、文学部で最も古い専修のひとつです。開設時の主任教授の狩野亨吉は、同時に初代の文科大学長でもあり、在野から内藤湖南や幸田露伴を教授として招聘するなど、京大文学部の独自の学風の礎を築きました。

本専修では、人間の行為を哲学的に考察すること、あるいは広義の「社会哲学」の研究を主たる目的としています。本専修における研究は、「倫理学理論」と「応用倫理学」に分類されるものに大別されますが、いずれを選ぶ場合でも、もう一方への目配りを欠かすことはできません。また、倫理思想史の全体を俯瞰することができるような歴史的研究も、手前勝手な思いつきや単なる意見の表明から真摯な学術研究を区別するための手段として重要な意味をもっています。

研究室では、大学院生を中心にいくつかの研究会、読書会が定期的に開催されており、これに参加することは大きな刺激になるでしょう。例年夏休みには、特定のテーマを集中的に勉強する合宿が開催されており、親睦を兼ねた重要な行事となっています。研究室の刊行物としては40年の歴史をもつ『実践哲学研究』やいくつかのプロジェクトによって作成された資料集やサーベイ論文集があり、研究方向を定める参考になると思われます。

倫理学専修について、さらに詳細を知りたい方は、専修のウェブサイトをご覧ください。

最近の卒業論文

  • ・ミランダ・フリッカーの証言的正義の徳について
  • ・ポリアモリーの悪さについての倫理学的考察

最近の修士論文

  • ・自殺の現代倫理学的議論について
  • ・自然な実在論における選言説擁護の検討

最近の博士論文

  • ・フッサールの他者論と倫理学の架橋
  • ・‘Why Be Moral?’問題の再検討
  • ・カント道徳的人間学の研究

研究室ゼミの風景1

研究室ゼミの風景2

文学部受験生向けメッセージ

倫理学という名前を聞くと、思わず顔をしかめる人も多いでしょう。小うるさい道徳のお説教を連想したり、あるいは昔の偉い人の難しいご高説を延々と聞かされた倫理の授業を思い出す人もいるかもしれません。しかし、大学で学ぶ倫理学は、そうした予想を大きく裏切ることになるはずです。学問としての倫理学は、広い意味での人間の行為一般に関する哲学的な考察から出発します。そもそも行為って何なのでしょう。また、なぜ道徳などという不思議なものがどんな人間社会においても存在するのでしょう。こうした素朴な疑問を発することが倫理学の出発点なのです。

現代社会は、これまでになかったような大きな倫理問題をかかえている社会だといえるでしょう。科学技術の急速な進歩は、同時に生命、環境、情報などの領域で深刻な問題を発生させました。このような新しい問題に直面したとき、もはやこれまでの道徳をそのまま適用することはできません。だからこそ、今一度、「道徳って何なのさ」という問いに立ち戻りつつ、具体的な問題に場当たり的でないような仕方で対応する必要があるのです。

倫理学研究室のメンバーは、それぞれ、現代の倫理学理論の研究から、生命、環境、情報はもちろん、戦争、ドラッグ、少年犯罪などの特殊現代的問題に至るまでの幅広い研究領域に取り組んでいます。詳しくは、研究室のウェブサイトをご覧下さい。

倫理学専修ウェブサイト

大学院研究科受験生向けメッセージ

倫理学は「善い、悪い」という判断の基準を研究する学問であるが、とくに社会生活のなかで「許容されるか、されないか」を研究する。クローン人間、代理母、性転換手術、環境破壊、生物保護、ネット犯罪など、新聞をにぎわす、いわゆる社会問題は本質的に倫理学的な問題の応用編である。倫理学は、生命倫理学、環境倫理学、情報倫理学、企業倫理学という応用倫理学の問題に実務的な解決案を提出しなくてはならない。アクチュアルな問題のなかに原理的な大問題が潜んでいるというのが、現代という時代の特徴である。まず「世界という大きな書物」を読むこと、すなわち現実の問題を深く分析して、そこから原理的な問題を発掘してくることが、倫理学の最初の課題である。

しかし、このような課題に独善的でない仕方で取り組むためには、古今のすぐれた倫理思想を正しく理解することが役に立つ。たとえば「社会的な価値は全て個人の選好に還元可能か」とか、「行為はそれが他人に迷惑をかけない限り社会的に拘束すべきではないか」、「そのつどの人間主観に相対的でない自体的価値は存在するか」といった問題を過去の倫理学者たちがどのように考えてきたのかを、それぞれのテクストに即して読み解くトレーニングは必須である。

このためには外国語を最低2つはマスターするとともに、倫理思想史の基本的な知識を身につけておくことが求められる。また、コンピュータを情報検索の手段として使いこなす必要がある。カントやミルなどの西洋の主要な倫理思想家の著作の多くは、現在はテキスト・データベース化されている。オンラインの論文データベースを利用して内外の文献目録や最新の研究論文を入手することが、どのような研究にとっても必須となっている。

大学院における研究と学部レベルの研究との相違は、学部段階では一つの具体的なテーマ、もしくは一人の主要な倫理思想化の主要なテクストの一つを確実に読み、そこで問題にされている基本的な問題を理解することがまず求められているのに対して、大学院では複数のテクストを縦横に読みこなすとともに、同時代、ないしはそれ以降の関連文献を十分に検討したうえで、自分の研究が現在までの研究史においてどのように位置づけられるのかをしっかりと自覚した論文を作成することが要求される。

倫理学専修の大学院生には、おおよそ次の3つの課題を達成することが求められると考えておいてよい。第一は、西洋の近代から現代にいたる主要な哲学者・倫理学者のうちいずれかひとりのテキストを精密に解釈して、従来の解釈史に訂正をせまるような文献解釈上の作品を、修士論文、博士論文として作成することである。第二は、倫理学説上のもっとも原理的な問題について、古今東西すべての論点を集約し、現代における問題のあり方を解明するような論文を作成することである。第三は、情報倫理学などの応用倫理学の領域で、全世界で発表された最新の主要論文の主旨を分析・再構築して、論点を明らかにする論文を執筆することである。文献解釈・原理・応用という三種の研究スタイルのすべてを習得することが要求されている。

なお、本研究室では大学院生を中心に「実践哲学研究会」が組織され、各種研究会を開くとともに、年1回『実践哲学研究』を刊行している。

倫理学専修ウェブサイト

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