歴史文化学 西南アジア史学専修

磯貝 健一 教授
中央アジア史
岩本 佳子 准教授
オスマン朝史

本専修の名称は、1957年に東洋史学講座のうちに開設された「西・南アジア史コース」に由来しますが、その教育・研究の重点は西アジアと中央アジアの歴史と文化に置かれています。この地域の主要言語であるアラビア・ペルシア・トルコの3言語については、初歩の文法から高度な史料講読演習に至る様々な科目が設定されており、順を追った学習が可能です。専修に属する学生諸君には少なくともこの内のひとつ、可能ならば複数の言語を学習することが望まれます。

本専修の指導方針は、文学部の他の専修と同じく、厳密な史料解読の能力を涵養した上で、研究の方向性やテーマについては最大限学生の自主性を尊重するというものです。従って、現在までの在学生・卒業生が研究対象とした地域は、西アジアや中央ユーラシアのみならずイベリア半島、北アフリカ、コーカサス、インド亜大陸、中国西部に至るまで、およそ上に述べた3言語の史料が存在するあらゆる地域と時代に及んでいます。本専修では従来古代オリエント史の研究・教育も行われて来ましたが、現状ではこの分野の教育を維持し続けることは困難になりつつあります。

卒業生からは、研究・教育職についた者、官庁、一般企業、マスコミの様々な分野で活躍する者など、多彩な人材が輩出しています。最近では修士課程を修了後、官公庁や企業に就職する者も増加しつつあります。

最近の卒業論文

  • ・工芸都市エスファハーンの19世紀
  • ・アマルナ書簡からみるアクエンアテンの宗教改革
  • ・イブン・タグリービルディーと15世紀マムルーク朝のペスト流行

最近の修士論文

  • ・10世紀のカスピ海南岸地域における諸勢力の動向
  • ・ガザン・ハンのシリア遠征に関する考察
  • ・私的利益と体制維持の相克――19世紀エジプトの土地保有をめぐる法学大論争

最近の博士論文

  • ・実践に向き合う思考――カイロ・ゲニザの眼科学関連文書の研究

16世紀のペルシア語著作『ラシーディー史』のチャガタイ・トルコ語訳写本(羽田家旧蔵本)

研究室風景

文学部受験生向けメッセージ

1. 対象地域――「西南アジア」とは?

この耳慣れない地域名称に戸惑いを覚える人が少なくないでしょう。「西南アジア」とは、東南アジアがアジア東南部を指す場合と比べると、より広くアジア西南部を指します。東はインド亜大陸西縁部やパミール高原から西はシナイ半島や小アジアのエーゲ海岸まで、北は旧ソ連のカザフ草原やカスピ海北岸に達する地域です。現在の国名で言うと、トルコ、アラブ諸国、イラン、アフガニスタン、旧ソ連の中央アジア・コーカサス諸国などが含まれます。したがって、「西南アジア」とは、主に、西アジアと旧ソ連中央アジアを合わせた地域と言い換えることができます。

しかし、学問領域の性質上、「西南アジア」以外でも歴史的に古代オリエント世界やイスラム世界に属した地域、つまり北アフリカ、スペイン、北インドなどはもちろんのこと、現代中国の新疆(中国領中央アジア)や東南アジア、さらには南ロシアまでもが対象となることがあります。

トルコ共和国アナムル郊外の城塞入口に付けられた石板銘文、西暦1446–67年

2. 研究と授業カリキュラムの特色

本専修における最も主要な研究分野は、イスラム勃興期から近代までのイスラム世界の歴史です。これは一つの研究分野と呼ぶにはあまりに広く、各学生が掲げる研究テーマは、時代・地域・方向性のどれをとっても実に多様です。イスラム勃興以前の歴史では、古代オリエント史、特にシュメール研究が盛んです。研究スタイルの特色として確かなのは、文字史料に基づいた実証を重んじる文献史学であることです。この場合、研究対象とする地域で同時代に記された文字史料・文献(楔形文字やアラビア文字で記されたテキスト)が史料として重視され、そのテキストを読みこなす能力が要求されます。

したがって、本専修の授業カリキュラムでは、史料原典の読解能力向上に重点を置き、特にイスラム世界の3つの主要言語、すなわちアラビア語、ペルシア語、トルコ語について、それぞれ現代語文法から古典語で著された史料原典の読解まで学習できるようになっています。もっとも、外国語学習経験者なら誰でも知っているように、高度な読解能力を身につけるには、何よりもまず、学習者個人の姿勢や努力が問われることになります。イスラム世界の研究以外では、古代オリエント世界の研究に役立つ授業が開講されています。なお、卒業論文(学士論文)作成に向けた研究テーマの選択は、全く自由と言っていいほど、学生各自の判断に委ねられています。

3. 卒業後の進路

1969年京都大学文学部に西南アジア史学講座が開設されて以来、最初期は1学年2~3名、1980年頃からは1学年5~10名の学生が西南アジア史学を専攻し、卒業後は各界で活躍しています。業種はマスコミ・一般企業・教員・公務員など実に多様ですが、西南アジア史学と少しは関係のある就職先として、商社、および数は少ないのですが、外務省が挙げられます。おおむね学部での専攻と就職先の業種に関連性が弱いのは、本専修や京都大学文学部に限ったことではなく、日本の大学の文科系学部全般に見られる傾向でしょう。

このほか、学部卒業生の約3分の1は、大学院(主に本学本専修の修士課程)に進学しています。大学院生の進路は、修士課程修了後就職するケースと、さらに博士課程に進学するケースに分かれます。前者の就職先の業種は、中央官庁や地方自治体の公務員、高校等の教員、大学図書館等の図書館司書が多く、マスコミに就職した人もいます。後者の博士課程進学の場合は、博士号を取得して研究職(主に大学教員)に就くことを目指します。この場合、本専修のような専門分野では、博士課程在学中に2~3年の海外留学を経験するのが常識となっていて、長い道のりになることは確かです。

西南アジア史学専修ウェブサイト

大学院研究科受験生向けメッセージ

本専修では、西アジア・中央アジアなど、主にイスラム世界の歴史を扱う。

本専修に所属する大学院生は、時代的には、古代オリエント史、イスラム現代史、中東近代史のいずれの分野を専攻してもよい。ただし、現在は、イスラム時代史に関する講義が多く開講されている。

また地域的には、西アジア・中央アジアに限らず、イスラム諸王朝下のインドやスペインの歴史など、イスラム教徒が主役を演じた時代であれば、いずれの地域を専攻してもよい。

演習は、アラビア語・ペルシア語・トルコ系諸語などのテキストを使って行われる。従って、大学院入学以前に、これらの言語のうち、最低1つ、望むらくは2つを習得しておく必要がある。未習得の言語については、入学後、別に開講されている初級の授業に出席して、それらを直ちに習得することが望ましい。

専修スタッフは、アラビア語・ペルシア語・トルコ系諸語などで書かれた原典史料によって歴史研究を行うことを基本的な姿勢とし、この研究方法を最も重視している。

また、研究を進めるためには、研究史の正確な把握も不可欠である。このため、大学院入学以前に、英独仏露など、できるだけ多くの言語の読解力を養っておくことが必要である。また、留学等の機会に備え、大学院在学中に、これらの言語の内、少なくとも1つについては、その会話能力をも見につけることが望ましい。

本専修がカヴァーする領域は、特にわが国では、なお未開拓な分野が多い。そのため、専修生は日頃から幅広い勉学を重ね、その蓄積の上に、広い視野から自らの研究テーマを選ぶことが必要である。そして、そのテーマについての研究方法を自ら工夫し、自らの歴史像を構築し、それを歴史の真実の姿に少しでも近づけることが望まれる。

関連施設として、上賀茂に羽田記念館(ユーラシア文化研究センター)がある。ここには、中央アジア、西アジア関係の文献が備えられ、講演会・研究会などが行われている。

また、本研究室には、関連学会である西南アジア研究会の事務局がおかれ、雑誌『西南アジア研究』が年2回刊行されている。

西南アジア史学専修ウェブサイト

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