東洋文献文化学 インド古典学専修

横地 優子 教授
サンスクリット文学
ソームデーヴ・ヴァースデーヴァ 教授
インド哲学、ヨーガ、サンスクリット・プラークリット文学
天野 恭子 准教授
ヴェーダ文献学
タオ・パン 特定講師
インド・イラン文献学

インド古典学という学問は、サンスクリットという古代インドの言語で残されたさまざまな分野の文献を、じっくりと読み解くことからはじまります。カーリダーサの『シャクンタラー』は、インドの古典文学の中でも最も有名なもので、皆さんの中にはこの名前を知っている人もいるでしょう。このような文学作品はもちろんのこと、古代インドの人々の思索のあとを伝える多くの哲学書、シヴァやヴィシュヌ、クリシュナ、また数多くの女神の姿を描くヒンドゥー教の聖典や宗教書、さらには法律の本や医学の文献も、この学問の対象となっています。代数や天文学のテキストもあるのです。

このような多種多様な文献の中から、自分の関心に従って、自分が読んでみたいテキストを見つけ出すこと。それが、インド古典学を学ぶ道の第一歩となります。インドを知るための言語は、サンスクリットだけではありません。インダス文明については、皆さんも知っているでしょう。しかしインダス文字はまだ解読されていません。文字を読んで知ることのできるインドの歴史は、紀元前1200年ころに成立したヴェーダ文献からはじまります。『リグ・ヴェーダ』がその最古のものです。これは、ヴェーダ語という古典サンスクリットよりも古い言語で残されています。ヴェーダは、現在に至るまでのインドの精神の源流ですから、ヴェーダについての知識をもつこともまた、インド古典学を学ぶうえで大切なことです。

インド古典学は、言葉を愛する人が、言葉と格闘しながら、古代インドの地で生み出された多様な文献の読解を通じて、人間の精神の根源を見つけ出そうとする学問です。

最近の卒業論文

  • ・マハーバーラタにおけるプルシャールタ観
  • ・ダルマ文献における婦女財の考察

最近の修士論文

  • ・罪と罰の相関性――古代インドにおける地獄の概念
  • ・ヴェーダ祭式におけるsubrahmaṇyāマントラの研究
  • ・ヴィシュヌの化身の列挙的記述――その形成と発展
  • ・Māṇḍūkya-upaniṣad(MāU)とGauḍapāda-kārikā(GK)第一章Śaṅkara註によるAdvaita――omとbrahmanにおける原因と結果の不異
  • ・インド算術書『トリシャティー』――著者未詳の注釈『トリシャティーバーシュヤ』と共に

最近の博士論文

  • ・Word and its Perception: A Study of the Sphoṭa-siddhi of Maṇḍanamiśra
  • ・The Khaṇḍakhādyaka with the Commentary of Utpala: Study, Translation, Mathematical Notes and Critical Text
  • ・Manas “Mind” in the Didactic Discourse in the Mahābhārata

学生研究室の情景(2021年5月)

研究室懇親会(2018年4月)

ジュニア・オープン・キャンパスのポスターセッション用のポスター(学生製作)

文学部受験生向けメッセージ

東洋と西洋の接点に位置するインドでは、他の地域には見られない独特の文化が古くから形成されてきました。この文化は、思想、文学、芸術、法典や歴史史料、科学・技術等、極めて広範囲にわたっており、それらの文献の古いものは大半がサンスクリットと呼ばれる言語で書かれています。

サンスクリット文化は、インドを中心とする南アジア地域はもちろんのこと、仏教やヒンドゥー教の伝播とともに、東アジア、東南アジアまで広まって、アジア基層文化の一つとなっています。

また、サンスクリット語は西洋とも深い関係があります。英語、フランス語、スペイン語など、現在、欧米やラテン・アメリカで10億以上の人々が話している言語はインド・ヨーロッパ語族と呼ばれていますが、サンスクリット語もこのグループに属しています。しかも、このグループの中でももっとも古く、かつ、文法的に最も整った言語として、取り分け重要な位置を占めています。

このように、サンスクリットは歴史的に、欧米の言語やアジアの文化と密接な関係をもっています。「サンスクリット」というと何か極めて特殊な研究対象と思われがちですが、それは間違っています。サンスクリットほど、欧米の言語、アジアの文化の双方に深く関わっている言語は他にありません。サンスクリットを勉強することは、人類が築き上げてきた豊かな知的世界に触れることに他なりません。それはまた、新たな知的発見と感動の旅でもあります。

大学院研究科受験生向けメッセージ

本専修は、従来あった「インド哲学史」専修と「サンスクリット語学サンスクリット文学」専修を統合して、2004年度より開設されたものである。両専修は、それぞれ京都大学における単独の講座(「印哲」と「梵文」)として、すでに100年近い歴史をもつものであったが、サンスクリット文献学・インド学を共通のディシプリンとするものであり、学問としてより強固な連携をはかるために統合されたものである。これにより、サンスクリット研究の世界的拠点としての役割が、一層強化されることが期待される。

サンスクリットは、厳密には紀元前数世紀に規模化された古代インド・アーリア語を意味するが、本専修では、この言語で著された文献と並んで、時代的にサンスクリットに専攻するヴェーダ語、サンスクリットの俗語形である「中期インド」諸語、一部の仏教文献に見られる仏教梵語、叙事詩に特有の叙事詩サンスクリットなど、古代のインド・アーリア系諸言語で編纂された膨大な量の文献を研究の対象としている。また、サンスクリット文献と密接な関係を持つ古代イラン語文献やタミル語の古典文献も扱われることがある。本専修の役割は、過去のサンスクリット学の研究成果を継承しつつ、古代インドの言語、文学、哲学、宗教、文化史等の研究を行い、その成果を発展させつつ、次世代に引き継ぐことにある。

専修主任の横地は、古典サンスクリット文学と、ヒンドゥー教神話を多く含むプラーナ文献の研究を専門としており、とりわけヒンドゥー教女神神話・信仰の形成史に詳しい。近年は初期シヴァ教史に取り組んでいる。准教授のアーチャールヤは、サンスクリット写本の扱いに精通しており、サンスクリット文献全般の校訂研究を手がけている。特にヴェーダーンタ等の思想史、シヴァ教・ヴィシュヌ教の教理・儀礼に詳しい。特定教授のヴァースデーヴァは古典サンスクリット・プラークリット文学とその理論(詩論等)、およびシヴァ教タントラ文献(特に中世ヨーガ)を専門とする。この他、人文研の藤井教授が、ヴェーダ文献の講読、ヴェーダ祭式に関する講義を行っている。また、毎年学外から数名の講師を招き、リグヴェーダ、中期インド・アーリア語、近現代インド諸語、伝統医学、哲学諸派などを扱う授業を開講している。

インド古典学はその範囲の広さ、文献の膨大さに比べ、インド国内を除けば、世界的にも研究者数が少ない分野であり、そのため特に近年では、国際的な研究協力、共同研究が日常となっている。本専修では授業のほぼ半分を英語で行い、特任教授による英語論文作成指導の授業を開講するなど、そのような現状のもとで活躍できる研究者の育成に力を注いでいる。

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