東洋文献文化学 中国語学中国文学専修

木津 祐子 教授
中国語学史
緑川 英樹 教授
中国古典文学
成田 健太郎 准教授
中国古典学、中国書論史

『アラビアン・ナイト』で、魔法のランプをもつアラジンは、中国人として描かれています。古来、〈中国〉で、多様な民族と文化が交錯し、遠くから好奇の視線を向けられていたからこそありえた物語設定でした。数千年にわたる文化交渉のなかで、周囲へ影響を与え、他からも新しい要素を受け入れ、呼吸しつづける巨大な場、それが〈中国〉だといえるでしょう。

一方で、〈中国〉は、ひとつの文字体系、ひとつの言語を、二千数百年にわたって安定的に維持してきました。実態は多様なのに、ひとつのことばで自らを覆いつくそうとする――そこに〈中国〉を読み解くおもしろさがあります。正しく読み解くためには、古典・現代語にまたがる確実な語学力とひろい知識、独創的な視点が必要です。

本専修では、原典を外国語・外国文学として厳密に理解するための訓練を重視し、国内外で多くの優れた成果を公表してきました。日常の研究を支える資料は、百年以上にわたって蓄えられており、国内有数の質・量を誇ります。

現代の地図上で同じ色に塗られた単純な見かけにもかかわらず、〈中国〉には奥行きがあります。たとえば、京都から上海までの距離は、上海から四川省の成都までの距離とほぼ同じ。〈中国〉的伝統は、ひとつではないのです。「万巻の書を読む」ことと併称されてきたのが、「万里の路を行く」。〈中国〉のいろいろな相貌と出会うためには、ぜひ実地も踏んでみてください。

最近の卒業論文

  • ・字書における漢数字について
  • ・林文月訳『源氏物語』における和歌の中国語訳について
  • ・『太平広記』精怪篇における道士と僧侶について

最近の修士論文

  • ・『篆隷文体』考
  • ・宋代における摘句批評と詩人風格論――「文如其人」に基づく考察
  • ・『諧声品字箋』の書誌的研究――その成立の経緯と学術的背景について

最近の博士論文

  • ・『白氏文集』編集に関する研究
  • ・平安朝における中晩唐詩賦の舶来と享受
  • ・呉宓と近代西洋の出会い――1920年代アメリカ文化のフィルター

人文科学研究所書庫見学

毎年恒例のお花見(於鴨川河川敷)

本研究室蔵の貴重資料より

文学部受験生向けメッセージ

中国の文学については「漢文」の授業のなかで、すでにその一端に触れておられることでしょう。日本では、ずっと昔から中国の文学を学び、それをお手本としながら自国の文学を展開させてきました。「漢文」はそうした伝統的な立場から見た中国文学といえましょう。大学の「中国文学」はさらに視野を広げて、世界のなかの文学の一つとして中国の文学に接しています。対象は3000年前の『詩経』から今日の文学まで、そこには多様で豊饒な世界が広がり、無数といっていいほどの作品が新たな読み手によって読み直されることを待っています。

大学では、これまでなじみのある訓読という方法によらず、現代中国語の知識を前提として、中国語の音によってそのまま読んでいきます。音そのもののひびきの美しさを体得できるよう、古典・現代のいずれに関心がある場合でも、入学後は現代中国語を充分に習得してください。

3000年以上にわたる文献の歴史があり、多くの方言が分布する中国は、ことばの歴史を追跡する対象としても魅力的であることも言い添えておきましょう。インド・中央アジアから東アジア、さらに近代西洋世界、それらと中国の言語・文学はどう交渉してきたか――努力しだいで、視点はさまざまに組み替えられます。

中国語学中国文学専修ウェブサイト

大学院研究科受験生向けメッセージ

漢民族によって築かれてきた中国の言語と文学は、時間的にも空間的にも他に比類がないほど広大な範囲に及んでいる。三千年を越える長い時期に及び、ヨーロッパに重なるほどの広い地域にわたって、一つの文化がとぎれることのない伝統を維持してきた。かつてはその中心に詩文などの正統的文学が位置し、時代の流れの中で戯曲、小説など多彩なジャンルを生み出しながら、今世紀には文語に代わって口語が文学の言語としてふつうのものになるに至る。そこには多様性と統一性の共存がある。

本専修では、近代以前と近現代を異種の存在とする態度をとらない。また言語と文学とはそもそも切り離せないものである以上、中国語学と中国文学とを分離せずに、相補うかたちで学ぶ必要がある。したがって、いかなる分野の研究をめざすにせよ、古典分・古典詩・白話文の全般にわたる原典の十分な読解力、通時的研究・共時的研究のふたつの態度を両立させる視野、語学・文学にまたがる基礎知識を要求する。その上にたって「なにが書いてあるか」はもとより「いかに表現しているか」を検討することこそが言語・文学の研究にほかならない。

日本の文化がその当初から中国の言語・文化と深く関わりを持ちつつ形成されてきたことはいうまでもない。研究の蓄積の最も豊かな国の一つに数えられよう。そうした伝統を生かしつつ、今日の要請に答えられる新たな研究を切り開くには、広い視野の中で中国の言語、文学を捉える態度が必要であろう。中国学の歴史は長いが、今日のこされている問題は限りなく多い。中国の文学が過去の伝統を帯びながら時代に応じて変化してきたように、その研究も伝統と現代とをいかに調和させるか、大きな課題を与えられている。問題点を自力で見いだし、考える意欲をもちつづけることを期待する。

研究を発展させていくにあたっては、海外の研究者と直接に意見交換できるだけの現代中国語・欧米諸語の運用能力が不可欠となるであろうこともとくに強調しておかねばならない。自国の文化に対する深い理解と愛着をもつ中国、古典古代以来の人文学の厚みを背景とする欧米、いずれも学ぶべき長所をあまた有するからである。

中国語学中国文学専修ウェブサイト

前のページに戻る