京都大学文学部は1906年(明治39年)に京都帝国大学文科大学として開設されました。哲学科、史学科、文学科の3学科24講座から出発し、長くその体制が続きましたが、1995年から96年にかけての改組・大学院重点化により、32(大学院では31)の専修が、東洋文献文化学、西洋文献文化学、思想文化学、歴史文化学、行動文化学、現代文化学という6つの系に再編され、現在に至っています(学部の系の名称は多少異なります。ホームページの「組織図」をご参照下さい)。
文学部・文学研究科の教育・研究の内容は、一般に「人文学」(the Humanities)と呼ばれるものです。人文学の対象は、過去・現在の人間の営み全般であり、日常の生業(なりわい)、家族生活、文化的・知的な活動、政治的行為など実に広範囲にわたります。そのような人間の営みは、古くから様々なテクスト、芸術作品、大小の建造物など、何らかの痕跡を遺してきました。こうした痕跡の発見、解読、解釈によって人間とその社会を理解することが、人文学の課題だと言えましょう。もちろん現代社会を対象とする分野では、フィールド調査が不可欠であり、心理学では人間の認知行為などを解明するための実験を行います。人文学における人間と社会へのアプローチは、かくも多様なのです。
現在私たちは、グローバリーゼーションの只中に置かれています。地球規模での経済・生活・情報のネットワークの稠密化、そして相互の依存と影響の関係を強めるグローバリゼーションは、格差、不平等、環境破壊など深刻な問題をも生じさせました。これらの問題の解決は地球規模で検討されねばならず、そのために地球を一つの共同体と考えることは、不可欠だと言ってよいでしょう。しかしこの地球=ひとつの世界を構成するのは、言うまでもなく多様な言語・歴史・文化・伝統を持つ国、地域、民族であり、グローバリゼーションのなかでそれらの平和な共存と繁栄を実現するためには、人文学により培われた、諸国、諸民族、諸地域の歴史・文化への深い理解が必要なのです。
文学部・文学研究科の教育・研究は30余りの専修に分かれていますが、学生諸君は各専修に分属した後にも、各系の他専修の講義や演習を履修し、またさらに系の枠をも越えて広く学ぶことにより、自分自身(自国)と他者(他国)の過去と現在を理解することができるはずです。そのようにして、グローバルな平和に貢献する知的基盤を拡充することは、現代の人文学の重要な課題です。さらに東日本大震災以来、私たちは日本の国家と社会の過去と現在を捉え直し、私たちの将来を地球規模で再考するという重大な課題をも抱えています。現代社会において文学部・文学研究科の教育・研究の果たすべき役割は、いっそう重要だと言えるのです。
とはいえ、文学部・文学研究科の学生諸君が何をどのように学び、どのような知的体験をするのかは、自身の動機・関心と意欲・熱意にかかっています。教員は高度な専門研究の成果を講義等で披露しますが、学生諸君はそのような研究をまねることはできず、またそれは無意味なことなのです。しかし自身の主体的な関心と熱意を持って専門の扉を叩けば、開かれる扉の内に限りなく広がる妖しくも美しい世界が待っています。その世界に入れば、そこでどのようにふるまい、どこに向かって歩むのか、それは誰の指示でもなく、学生諸君の思考と判断に委ねられます。その意味で文学部では他学部にも増して「自学・自習」が求められるのだということをご理解下さい。
文学研究科長・文学部長 服部良久