講義題目 2020年度

宗教学専修研究室 講義題目 2020年度

開講期・曜時限教員種別題目
前期火1杉村靖彦講義宗教哲学概論
[授業の概要・目的]
宗教と哲学は、人間存在の根本に関わる問いを共有しながらも、歴史的に緊張をはらんだ複雑な関係を結んできた。その全体を視野に入れて思索しようとする宗教哲学という営みは、多面的な姿ととりながら歴史的に進展し、現代でも大きな思想的可能性を秘めている。この授業では、その今日までの変遷を通時的に追うことによって、宗教哲学という複雑な構成体について、受講者が一通りの見取図を得られるようにすることを目的とする。

[授業計画と内容]
以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
第1回 宗教と哲学:根本の問いから考える。
第2回 ミュートスからロゴスへ:哲学の誕生
第3回 ソクラテス、プラトン、アリストテレス:哲学における神
第4回 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教:啓示と信仰の神
第5回 ヘブライズムとヘレニズムの出会い:キリスト教神学の成立
第6回 中世における神学と哲学:スコラ哲学と神秘主義
第7回 近世形而上学:デカルトと哲学的神学の流れ
第8回 宗教哲学の成立と展開(1):カントとシュライアマハー
第9回 宗教哲学の成立と展開(2):ヘーゲルとキルケゴール
第10回 「神の死」とニヒリズム:ニーチェ
第11回 哲学と宗教の「解体」的反復:ハイデガー
第12回 日本の宗教哲学と仏教的伝統(1):西田幾多郎
第13回 日本の宗教哲学と仏教的伝統(2):九鬼周造
第14回 アウシュヴィッツ以降の宗教哲学:レヴィナス
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
後期火1杉村靖彦講義宗教哲学と宗教学―基本文献解題
[授業の概要・目的]
宗教哲学とは、哲学の一形態であると同時に、宗教研究のさまざまな道の一つでもある。この両面性とそれによる独自な意義が理解できるように、この授業では、宗教哲学と宗教学の歴史的関係を明らかにした上で、基本となる文献を幅広く選び、それぞれについて読解の手がかりとなるような解題を行っていく。それを通して、この分野における過去の重要な思索を自ら追思索し、宗教という事象を視野に入れた哲学的・学問的思索の一端に触れることが、この授業の目的である。

[授業計画と内容]
以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
第1回 宗教哲学と宗教学(1):歴史的位置づけ
第2回 宗教哲学と宗教学(2):さまざまなアプローチ
第3回 宗教哲学と宗教学(3):現代的課題
第4回 パスカル『パンセ』:考える葦と隠れたる神
第5回 ヒューム『宗教の自然史』:経験主義的宗教論の嚆矢
第6回 カント『単なる理性の限界内の宗教』:根源悪論と宗教哲学
第7回 ニーチェ『道徳の系譜学』:ラディカルな宗教批判
第8回 ジェイムズ『宗教的経験の諸相』:宗教心理学の方法
第9回 西田幾多郎『善の研究』:日本の宗教哲学の出発点
第10回 モース『贈与論』:宗教社会学の豊饒な可能性
第11回 ハイデガー『存在と時間』:「現存在」と「死への存在」
第12回 ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』:静的宗教と動的宗教
第13回 エリアーデ『聖と俗』:宗教現象学の射程
第14回 ヨナス『アウシュヴィッツ以後の神概念』:神概念の解体的変容
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期水4杉村靖彦特殊講義宗教/哲学のポエティクス
[授業の概要・目的]
 「ニヒリズムという問題には、宗教だけからも哲学だけからも―少なくとも従来、宗教を哲学から区別する、宗教の本質的な立場と見なされているところだけからも、哲学と宗教を区別する、哲学の本質的な立場とされているところだけからも―解決され難いものが含まれている。」
 自らの宗教哲学の出立点について、かつて西谷啓治はこのように述べていた(「私の哲学的発足点」(1963))。哲学がその根底から問いただされ、宗教がその根底から問いただされる中、双方の問いの接触面において展開される新たな様式の思索。そこに今日の宗教哲学のもっとも先鋭的な姿があり、その困難と課題がある。
 だが、そのような思索は、従来の宗教の語彙にも哲学の概念にも根底的な変動と転換を迫るはずである。はたしてそれは、どのような言葉によって表現されうるのか。その「ポエティクス」を探究していかねばならない。そのためには、哲学と宗教、さらには文学において、語りえない事柄を表現にもたらすために開拓されてきた言語の変容と創造の技法を探査し、その意義と効力を吟味していく必要がある。
 以上のような問題意識の下で、本講義では、「語りえないものを語る」営みのポエティクスの諸相について、思想史的な流れをたどりながら考究していきたい。

[授業計画と内容]
以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2、3回の授業を充てて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展を直接反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)
1.宗教/哲学の「ポエティクス」―問題設定と展望 (第1回~第3回)
2.「否定神学」的思索―その由来と現代的諸変奏(第4回~第6回)
3.告白しえないものの告白―悪を表現する言葉とその象徴的資源(第7回~第8回)
4.一度も現実化したことのない過去ー「痕跡」と「残余」をめぐる諸考察(第9回~第11回)
5.言葉が言葉する/身体が身体化するー身体性のポエティクス (第12回~第14回)
6.総括(第15回)
なお、最後の授業は、本学期の講義内容全体をめぐる質疑応答と議論の場とし、講義内容の受講者へのフィードバックを図る。
開講期・曜時限教員種別題目
後期水4杉村靖彦特殊講義田辺哲学研究
[授業の概要・目的]
 田辺元の哲学的思索は、その異様なまでの凝縮度と彼固有の論理への偏愛によって異彩を放っている。田辺は西洋哲学の最前線の動向、諸学問の最新の成果を飽くことなく摂取し、歴史的現実にもそのつど敏感に反応しつつ、それら全てに自前の思索によって緊密な総合を与えるべく、生涯血の滲むような努力を続けた。彼の濃密にすぎる文章はそのようにして生み出されたものである。この凝縮体を丁寧に解きほぐし、そこに封じ込められたさまざまな展開可能性を切り出すことによって、今日のわれわれがリアルな接触をもちうるような形で語り直すこと。それが本講義の狙いとするところである。
 本年度は、ここ数年にわたって、後期の特殊講義を用いて続けてきた田辺哲学研究の締めくくりとして、最晩年の田辺哲学、すなわち「死の哲学」に属する「生の存在学か死の弁証法か」「メメントモリ」「禅源私解」といった論考と、「哲学と詩と宗教」や「マラルメ覚書」等、詩的言語に正面から取り組んだ「詩作」論を主たる題材とする。この二系統の思索を、単に同時期になされた二つの探究として並列するのではなく、両者の深い次元での照応関係を再構成し、また同時代の西洋思想の布置の中に置き直すことを目指す。それによって、田辺哲学の最終的到達点を「死者と象徴」という問題系に見てとり、その哲学的・宗教哲学的なポテンシャルを解き明かしたい。

[授業計画と内容]
以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2,3回の授業をあてて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展をダイレクトに反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)
1.死の問いと死者の問い:田辺の「死の哲学」をめぐる争点 (第1回~第2回)
2.「死者と生者の実存共同」:「実存協同」概念の死者論的転回?(第3回~第5回)
3.「生の存在学か死の弁証法か」:ハイデガーとの最後の対決とその思想的布置(第6回~第8回)
4.「生といわじ、死ともいわじ」:決定不可能性と根源的偶然性(第9回~第11回)
5.渦動する象徴:マラルメ「双賽一擲」 と田辺哲学の到達点(第12回~第14回)
6.総括(第15回)
なお、最後の授業は、本学期の講義内容全体をめぐる質疑応答と議論の場とし、講義内容の受講者へのフィードバックを図る。
開講期・曜時限教員種別題目
前期火4伊原木大祐特殊講義マリオン現象学の問題構成
[授業の概要・目的]
本講義では、フランスの哲学者ジャン=リュック・マリオン(1946-)の思索を手がかりとして、現象学を宗教研究に応用することを最終目標とした準備的・原理的探究を行う。宗教哲学的思索を推し進める上で、マリオンの現象学思想は有効かつ多様な分析ツールを提供してくれている。いわゆる「宗教現象学」とは異なる視点に立った「宗教‐現象学」の構成に目を向けつつ、主としてフランス現象学の先鋭化された諸思想を導きの糸としながら、その総合的形象としてのマリオン思想を読み解いてゆく。今年度の講義全体は、「表象」・「還元」・「直観」という三つの基本概念に的を絞って考察を進める。

[授業計画と内容]
初回と第2回は導入に当てる。第3回から本格的な議論に入ってゆくが、講義の性質上、各サブトピックに対して【 】で指示した週数を充てる。各々を論じるのに時間が足りない場合は、問題を深く掘り下げてゆく目的で、週数を調整・変更する可能性がある。
1.導入と概説(なぜ現象学なのか?マリオン思想の諸前提)【2週】
2.表象の問い(ハイデガー、レヴィナス、アンリ、マリオン)【4週】
3.還元の問い(超越論的還元と「第三の還元」)【3週】
4.直観の問い(直観の拡張とその帰結)【4週】
5.総括(現象と主体の脱構築は宗教哲学に何をもたらすか?)【1週】
6.フィードバック【1週】
開講期・曜時限教員種別題目
後期火5伊原木大祐特殊講義身体と欲動の宗教哲学
[授業の概要・目的]
古の時代から哲学者と宗教者はしばしば身体的欲望を共通の敵と見なしてきた。それにより身体の制御は一つの形而上学的目標となる。禁欲・克己・節制は長らく宗教的かつ哲学的な美徳であった。本講義では、禁欲主義(もしくはそれに伴う反出生主義)の宗教哲学を軸としながら、身体および欲動の問題系を考察する。「肉はいかにして、放蕩の場所であると同時に救済の場所でもありうるのか?」(ミシェル・アンリ)という問いに対し、アンリとは異なる仕方で答えを探ってみたい。

[授業計画と内容]
初回は導入に当てる。第2回から徐々に本格的議論に入ってゆくが、講義の性質上、各サブトピックに対して【 】で指示した週数を充てる。各々を論じるのに時間が足りない場合は、問題を深く掘り下げてゆく目的で、週数を調整・変更する可能性がある。
1.イントロダクション【1週】
2.古典古代における「身体」の成立【3週】
3.体(ソーマ)と肉(サルクス)の重層的読解【2週】
4.禁欲の形而上学――古代から現代へ【4週】
5.禁欲をめぐる批判的考察(独身制の解釈)【2週】
6.欲動の宗教哲学的解決【2週】
7.フィードバック【1週】
開講期・曜時限教員種別題目
前期火2芦名定道特殊講義キリスト教思想と宗教哲学(8)──キリスト教思想と自然の問題──
[授業の概要・目的]
 現代世界において宗教は、深刻な対立要因の一つと見なされている。この対立図式自体の問題性は別にしても、キリスト教がこうした文脈で問われていることは否定できない。本講義では、こうしたキリスト教思想を取り巻く思想状況を念頭に置きながら、キリスト教思想の新なる展開の可能性について議論を行いたい。
 そのために本講義では、キリスト教思想とその宗教哲学的基盤の探求というアプローチが試みられる。キリスト教思想の新たなる展開には、こうした根本からの議論の組み立てが要求されるからである。2020年度前期は、これまで数年の講義から浮かび上がった諸問題から、「自然」の問題を集中的に取り上げることによって、キリスト教的な視点から宗教哲学を構築する議論を始めたい。

[授業計画と内容]
第一回目のオリエンテーションに続き、以下の順番で講義は進められるが、授業は、一回につきほぼ一つの項目を講義するペースで行われる。
0.オリエンテーション:キリスト教にとって「自然」とはいかなる問題か
1.現代思想における「自然」の問い
2.聖書における自然の問い:創造
3.聖書における自然の問い:知恵
4.聖書における自然の問い:終末
5.自然神学:源泉
6.自然神学:古典的議論
7.自然神学:可能性
8.時間と空間
9.自然哲学:宇宙論、物質
10.自然哲学:進化論、自然から精神へ
11.自然科学:生命
12.自然科学:心
13.自然科学:技術
14.自然の宗教哲学に向けて
15.フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
後期火2芦名定道特殊講義キリスト教思想と宗教哲学(9)──生命・科学・倫理──
[授業の概要・目的]
 現代世界において宗教は、深刻な対立要因の一つと見なされている。この対立図式自体の問題性は別にしても、キリスト教がこうした文脈で問われていることは否定できない。本講義では、こうしたキリスト教思想を取り巻く思想状況を念頭に置きながら、キリスト教思想の新なる展開の可能性について議論を行いたい。
 そのために本講義では、キリスト教思想とその宗教哲学的基盤の探求というアプローチが試みられる。キリスト教思想の新たなる展開には、こうした根本からの議論の組み立てが要求されるからである。2020年度後期は、これまで数年の講義から浮かび上がった諸問題から、「生命」の問題を集中的に取り上げることによって、キリスト教的な視点から宗教哲学を構築する議論を進めたい。

[授業計画と内容]
第一回目のオリエンテーションに続き、以下の順番で講義は進められるが、授業は、一回につきほぼ一つの項目を講義するペースで行われる。
0.オリエンテーション:キリスト教思想にとって「生命」とはいかなる問いか
1.現代思想における「生命」の諸問題
2.生命の危機:生命
3.生命の危機:環境
4.科学技術と生命:次元論
5.科学技術と生命:原子力
6.環境倫理と宗教:自然の権利
7.環境倫理と宗教:世代・家
8.動物倫理と宗教
9.現代の死生観の変容
10.生命倫理と宗教:臓器移植
11.生命倫理と宗教:遺伝子工学
12.生命倫理と宗教:インフォームドコンセント
13.キリスト教的人間学と生命
14.生命論と宗教哲学
15.フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期火3伊原木大祐演習Michel Henry, Paroles du Christを読む
[授業の概要・目的]
本演習では、ミシェル・アンリの遺作となった『キリストの言葉』(2002)を扱う。本書は、後期アンリのいわゆる「キリスト教三部作」の最後に位するものであり、相対的に明晰な文体で書かれた啓蒙書でもあるが、宗教哲学的な示唆に富んだ作品として精読に値する。アンリ思想のエッセンスをつかみ取ると同時に、聖書(とりわけ福音書)への哲学的アプローチの好例を知る上でも、益が多いと思われる。必要に応じてNestle-Alandの校訂版で新約原文を確認する。

[授業計画と内容]
第1回 イントロダクション
本演習で扱う著作およびその著者について知っておくべき最低限の事柄を説明する。
第2~14回
『キリストの言葉』を序論から読み進めてゆく。進度は出席者の語学力に合わせて調整してゆく予定。
第15回 まとめ
読み終えた箇所のふりかえり。議論・質問等の時間とする。
開講期・曜時限教員種別題目
後期火4伊原木大祐演習Max Scheler, Moraliaを読む
[授業の概要・目的]
本演習では、マックス・シェーラー『モラリア』(1922)の中から宗教哲学に深く関わる論考をピックアップして読み進めてゆく。本書は、シェーラーが四巻本として企図した著作『社会学および世界観学論集』(1923)の第一巻に組み込まれた論文集である。中でも「苦悩の意味について」(1916)・「愛と認識」(1915)の二論文は、シェーラー哲学への導入として役立つと同時に、彼独自の宗教観を余すところなく打ち出した論考群となっており、当該分野の貴重なレガシーをなす。これらの読解を通じて参加者一人一人が自身の思索を深めていくことが期待される。

[授業計画と内容]
第1回 イントロダクション
本演習で扱う著作およびその著者について知っておくべき最低限の事柄を説明する。
第2~14回
『モラリア』所収の「苦悩の意味についてVom Sinn des Leides」から読み進めてゆく。進度は出席者の語学力に合わせて調整してゆく予定。
第15回 まとめ
読み終えた箇所のふりかえり。議論・質問等の時間とする。
開講期・曜時限教員種別題目
前期水5杉村靖彦演習Henri Bergson, Essai sur les données immédiates de la conscience を読む
[授業の概要・目的] 
 『意識に直接与えられたものについての試論』(1889)は、ベルクソンの博士論文にして第一作であり、「純粋持続」の概念と共にベルクソニスムの出立点となった記念碑的著作である。
 長らくベルクソン哲学は、いわゆるフランス・スピリチュアリスムの精華と見なされ、その文脈で、宗教哲学においても重要な位置づけを与えられてきた。だが近年、新資料が続々と刊行され、新たな研究手法が次々と試みられてきた結果、ベルクソン哲学の描像は大きく変貌し、そこからこれまで想像できなかったような哲学的可能性が引き出されようとしている。
 こうした研究状況をも踏まえて、この演習では、フランス語原典の精読という枠組みを超えて、複数の日本語訳や英訳のクロスリーディングも取り入れつつ、半期で著作全体を通読する。その上で、参加者一人一人にそれぞれの関心からの文献調査や内容論評などを課すことで、研究的な読解の訓練の場としたい。

[授業計画と内容]
第1回 導入
 テクストを読み進める上で必要な導入的説明を教員が行う。2回目以降の担当者を決める。
第2回‐14回
 ベルクソン『意識に直接与えられたものについての詩論』を1回あたり15頁から20頁のペースで読み進める。各回の担当者は、内容要約と文献調査を行った上で、もっとも注目すべき箇所について、フランス語原文を抜き出しその日本語訳を自らの手で行う。
第15回
 著作全体を振り返り、教員との質疑応答や出席者間での討議を行う。
開講期・曜時限教員種別題目
後期水5杉村靖彦演習Vladimir Jankélévitch, La mort を読む
[授業の概要・目的] 
この十数年来、哲学や宗教が長らく根本問題の一つとしてきた死や死者という問題が、たとえば「死生学」のような新たな意匠の下で盛んにとりあげられてきたが、その際「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」という区分法が自明の事のように用いられてきた。それを最初に提示したのが、ジャンケレヴィッチの大著『死』(1966)である。死の三区分が便利な符牒として独り歩きする一方で、独自の用語を駆使し濃密な文章で展開されるこの著の叙述自体は、ほとんどまともに理解されていないとい言っても過言ではない。
今期の授業では、昨年度に続いて、この著の第2部「死の瞬間における死」の第4章、および第3部「死の向こう側の死」から重要箇所を抜粋して読み、ジャンケレヴィッチの独特の形而上学的思索が死の問いへと迫る仕方を精密に理解することを目指す。

[授業計画と内容]
第1回 導入
  テクストを読み進める上で必要な予備知識の解説を行う。
第2回 第2部前半までの内容紹介
  昨年度の演習で取り上げた箇所を中心に紹介する。
第3回‐14回
  ジャンケレヴィッチ『死』の第2部「死の瞬間における死」の第4章、および第3部「死の向こう側の死」から抜粋した箇所を、1回当たり2頁程度のペースで精読していく。
第15回
  読み終えた箇所全体を振り返り、疑問点等について出席者全員で討議を行う。
開講期・曜時限教員種別題目
前期木3下田和宣講読エラノス会議――「東洋/西洋」の練成と変容 1
[授業の概要・目的]
 文化的多様性が叫ばれる今日において広く認識が共有されつつあるように、世界は「東洋」と「西洋」に二分されるわけではない。にもかかわらずこれまで、この非常に極端で実際には非対称的ですらある地理的メタファーの対比を通じた相互の性格限定は、学問的諸制度はおろか、クリティカルで根源的な思索においても支配的であったと言えよう。あるいはそれのみならず、今日のわたしたちの思考にとっても――ヨーロッパの歴史において形成された「東洋」表象が学問的言説によって強化され、植民地主義を促進する根拠を提供してきた、という「オリエンタリズム」の告発(サイード)を経由したわたしたちにとっても――そのモデルはしばしば暗黙の背景としてなお作用しているのではないだろうか。
 果たしてわたしたちは「東洋」(ないし「西洋」)によって何を語ろうと欲し、何を期待するのだろうか。この問いをより精緻なものとするためにはまず、東洋/西洋を対として形成・強化してきた諸々のコンテクストを紐解き、その歴史的現場へと改めて赴くことが重要だろう。この授業ではそのような意味形成の特異な編み目のひとつとして「エラノス会議」を取り上げたい。「エラノス会議」とは、スイス・アスコナに招かれた神話・宗教・哲学に関するスペシャリストたちによる国際的な学術討議のことである。1933年の設立以来、ユング、ルドルフ・オットー、エリアーデ、ショーレム、キャンベル、ティリッヒ、ブーバーなど、日本からも鈴木大拙、井筒俊彦、上田閑照、河合隼雄らが参加し、人間的根源へと迫る議論を行った(現在もなおその名を冠した集まりは残っている)。錚々たる思想家・研究者たちを単純に統一する実体として「エラノス精神」なるものを考えることはできないし、広大なエラノス的空間のすべてを渉猟することは非常に困難である。それでもいくつかの講演録を中心に諸々のテクストを読み合わせることで、この稀有な討議的共同体が何を生み出したのか、彼らを「東洋」への希求へと導いたものが何であったのかという諸問題に迫りたい。

[授業計画と内容]
前期では主に次のふたつの文献(エラノス会議での講演録)を読解する。まず「エラノス会議」の成立とその精神についての素描であるルドルフ・リッツェマの講演を扱い、会議全体の概観を得る。それから河合隼雄の日本神話に関する講演を検討する。「エラノス会議」の方向性を定めたのは精神分析学者のユングであった。河合はユング派の流れをくむ研究者であるので、会議の持つ独特の雰囲気を知るためにもその講演は有効な手がかりとなるだろう。
第1回 イントロダクション
「エラノス会議」について簡単に紹介。授業の進め方、および扱うテキストについて説明し、訳読の割り当てを決める。
第2~5回 ルドルフ・リッツェマ「エラノスの諸起源と作品――第55回会議に際しての考察」(1987年)を読む
第6~14回 河合隼雄「日本神話における隠れされた神々」(1985年)を読む
第15回 フィードバック
全体を振り返り、残された課題や問題点などについてまとめ、議論する。
開講期・曜時限教員種別題目
後期木3下田和宣講読エラノス会議――「東洋/西洋」の練成と変容 2
[授業の概要・目的]
 文化的多様性が叫ばれる今日において広く認識が共有されつつあるように、世界は「東洋」と「西洋」に二分されるわけではない。にもかかわらずこれまで、この非常に極端で実際には非対称的ですらある地理的メタファーの対比を通じた相互の性格限定は、学問的諸制度はおろか、クリティカルで根源的な思索においても支配的であったと言えよう。あるいはそれのみならず、今日のわたしたちの思考にとっても――ヨーロッパの歴史において形成された「東洋」表象が学問的言説によって強化され、植民地主義を促進する根拠を提供してきた、という「オリエンタリズム」の告発(サイード)を経由したわたしたちにとっても――そのモデルはしばしば暗黙の背景としてなお作用しているのではないだろうか。
 果たしてわたしたちは「東洋」(ないし「西洋」)によって何を語ろうと欲し、何を期待するのだろうか。この問いをより精緻なものとするためにはまず、東洋/西洋を対として形成・強化してきた諸々のコンテクストを紐解き、その歴史的現場へと改めて赴くことが重要だろう。この授業ではそのような意味形成の特異な編み目のひとつとして「エラノス会議」を取り上げたい。「エラノス会議」とは、スイス・アスコナに招かれた神話・宗教・哲学に関するスペシャリストたちによる国際的な学術討議のことである。1933年の設立以来、ユング、ルドルフ・オットー、エリアーデ、ショーレム、キャンベル、ティリッヒ、ブーバーなど、日本からも鈴木大拙、井筒俊彦、上田閑照、河合隼雄らが参加し、人間的根源へと迫る議論を行った(現在もなおその名を冠した集まりは残っている)。錚々たる思想家・研究者たちを単純に統一する実体として「エラノス精神」なるものを考えることはできないし、広大なエラノス的空間のすべてを渉猟することは非常に困難である。それでもいくつかの講演録を中心に諸々のテクストを読み合わせることで、この稀有な討議的共同体が何を生み出したのか、彼らを「東洋」への希求へと導いたものが何であったのかという諸問題に迫りたい。

[授業計画と内容]
後期では井筒俊彦と鈴木大拙による講演を扱う。彼らはともにそれぞれの仕方で「東洋」(あるいは「精神的東洋」)を追求した宗教哲学者である。日本語の著作に比して、彼らの英語著作はわかりやすいと言われている。「エラノス会議」での講演もまた、ヨーロッパ文化圏の研究者への紹介的な意図もあるだろうが、それ以上に「翻訳」という母国語の複雑なコンテクストを外国語という限定のなかで再整理するという独特の抽象作用によって何が形成されるのか、着目してみたい。
第1回 イントロダクション
扱うテキストについて紹介、簡単な説明を行い、担当の割り振りを決める。
第2~8回 井筒俊彦「イマージュとイマージュ不在のあいだ――東アジアの思惟方法」(1979)を読む
第9~14回 鈴木大拙「禅仏教における自然の役割」(1953年)を読む
第15回 フィードバック
全体を振り返り、残された課題や問題点などについてまとめ、議論する。
開講期・曜時限教員種別題目
前期金3安部浩演習ハイデガーのニーチェ講義を読む
[授業の概要・目的]
ハイデガーのニーチェ講義。それは、ハイデガーその人の一見秘教的と思しき中期以降の思想を理解する上でも、ニーチェの後期哲学の高峰を踏査する上でも、避けて通ることのできない文献である。しかのみならず、ハイデガーやニーチェの思想との関連を別にしても、それは哲学の根本問題を自ら考える上で実に多くを教えられる、滋味掬すべき必読の書である。 
 この大部の著作の第一巻、第一部を冒頭から繙読し、議論を戦わせていくことで、われわれは、藝術、永劫回帰、認識、形而上学、真理、存在等をめぐる問題系に関する考察に努めることにしよう。そしてそれにより、語学・哲学上の正確な知識、及び論理的思考力に基づく原典の厳密な読解力を各人が涵養すること、そしてこの読解の過程において浮上してくる重要な問題をめぐる参加者全員の討議を通して、各人が自らの思索を深化させていくことが、本演習の目的である。

[授業計画と内容]
原則的には毎回、予め指名した二名の方にそれぞれ、報告と演習の記録を担当して頂くことにする。以下、各回に扱う予定である原典の範囲を記すが、授業の進度については出席者各位の実力を勘案して修正することもある。
ガイダンス
Wahrheit im Platonismus und im Positivismus. Nietzsches Versuch einer Umdrehung des Platonismus aus der Grunderfahrung des Nihilismus
Umkreis und Zusammenhang von Platons Besinnung auf das Verhaeltnis von Kunst und Wahrheit
Platons Staat: Der Abstand der Kunst (Mimesis) von der Wahrheit (Idee) (1)
Platons Staat: Der Abstand der Kunst (Mimesis) von der Wahrheit (Idee) (2)
Platons Phaidros: Schoenheit und Wahrheit in einem beglueckenden Zwiespalt (1)
Platons Phaidros: Schoenheit und Wahrheit in einem beglueckenden Zwiespalt (2)
Nietzsches Umdrehung des Platonismus
Die neue Auslegung der Sinnlichkeit und der erregende Zwiespalt zwischen Kunst und Wahrheit
Die Lehre von der ewigen Wiederkunft als Grundgedanke von Nietzsches Metaphysik
Die Entstehung der Wiederkunftslehre
Nietzsches erste Mittelung der Wiederkunftslehre “Incipit tragoedia”
Die zweite Mitteilung der Wiederkunftslehre
総括と総合討論
開講期・曜時限教員種別題目
前期火5竹内綱史演習ニーチェ『悲劇の誕生』を読む
[授業の概要・目的]
本演習では、昨年度に引き続き、ニーチェの哲学上の処女作『悲劇の誕生』(1872年)を精読する。同書は古典文献学の本として書かれてはいるが、当時の文化状況に一石を投じる意図のもとさまざまな問題意識が詰め込まれており、すでにニーチェ哲学の中心的な発想がすべてそろっていると言っても過言ではない。本演習ではその精読を通じて、ニーチェの問題意識を理解するとともに、後に「ニヒリズム」として論じられるようになる問題について検討したい。

[授業計画と内容]
 『悲劇の誕生』という著作の概要や背景、前年度までの講読箇所の議論について解説する。基本的な訳書や概説書・注釈書などを紹介し、授業の進め方について周知する。
第2回~第14回 『悲劇の誕生』精読
 『悲劇の誕生』を前年度の続きから精読する。テクストの一語一句について全員で議論する。毎回プロトコル担当者を決め、授業の最初に前回のプロトコルを発表してもらいそれについて検討してから、続くテクストの精読を行う予定。
開講期・曜時限教員種別題目
後期水5大河内泰樹特殊講義西洋哲学史古典精読
[授業の概要・目的]
G. W. F. Hegel, Phänomenologie des Geistes、精神章を精読する。この箇所は、ギリシアに始まる西洋史を概念的に辿る箇所であり、そこではヘーゲルの歴史観をうかがうことができる。この章の講読を通じて、 ヘーゲルの歴史観を検討する。

[授業計画と内容]
第1回 イントロダクション 『精神現象学』の成立と研究史について担当者より概説する。授業の進め方と準備・発表の方法を 確認し、出席者の担当部分を決定する。
第2回~第14回 G. W. F. Hegel, Phänomenologie des Geistesの講読
G. W. F. Hegel, Phänomenologie des Geistesを精読し、内容について討論する。学生の習熟度や毎回の 予定を示すことはできないが、おおむね下記のPHB版で1回2頁程度を目処として進行する。 第15回 まとめ 精読の成果をまとめ、残された課題や疑問点について全員で議論する。この回を補充に充てること もある。
開講期・曜時限教員種別題目
金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習宗教哲学基礎演習B
[授業の概要・目的]
宗教哲学の基本文献を教師とチューター役の大学院生の解説を手がかりに読み進めていくことで、より専門的な研究への橋渡しになるような知識と思考法の獲得を目指す。4回生以上の宗教学専修在籍者にとっては、卒論の中間発表の場ともなる。
宗教学専修の学部生を主たる対象とするが、哲学と宗教が触れ合う問題領域に関心をもつ2回生、および他専修学生の参加も歓迎する。[授業計画と内容]宗教哲学の基本文献といえる著作や論文を選んで各回の授業に割り振り、事前に出席者に読んできてもらう。そして、毎回チューター役の大学院生の解説を踏まえて、教員の司会進行の下で、質疑応答と議論を行っていく(その際、履修者には特定質問者の役割を少なくとも1回は担当してもらう)。また、卒論の中間発表の際には、論述の仕方や文献の扱い方なども指導し、論文の書き方を学ぶ機会とする。
隔週の授業のため、全7回として各回のテーマを記しておく。なお、どのような文献を取り上げるかは、前期の「宗教哲学基礎演習A」の様子を見て決めることにする。それによって、各回で取り上げる文献の種類も、以下の記したものとは異なる可能性もある。
第1回  オリエンテーション・卒業論文の中間発表
第2回  宗教哲学の基本文献(近代フランス)の読解・解説・考察
第3回  宗教哲学の基本文献(近代ドイツ)の読解・解説・考察
第4回  宗教哲学の基本文献(近現代英米)の読解・解説・考察
第5回  宗教哲学の基本文献(現代フランス)の読解・解説・考察
第6回  宗教哲学の基本文献(現代ドイツ)の読解・解説・考察
第7回  宗教哲学の基本文献(京都学派の哲学)の読解・解説・考察
開講期・曜時限教員種別題目
金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習Ⅱ宗教学の諸問題
[授業の概要・目的]
演習参加者が、宗教学の諸問題のなかで各人の研究するテーマに即して発表を行い、その内容をめぐって、全員で討論する。討議のなかで、各人の研究を進展させることが目的である。[授業計画と内容]参加者が順番に研究発表を行い、それについて全員で討論する。各人の発表は2回にわたって行う。即ち、発表者は1時間以内の発表を行い、続いてそれについて討論する。発表者はその討論を受けて自分の発表を再考し、次回に再考の結果を発表して、それについてさらに踏み込んだ討論を行う。したがって、1回の授業は前半と後半に分かれ、前半は前回発表者の2回目の発表と討論、後半は新たな発表者の1回目の発表と討論となる。
第1回 オリエンテーション、参加者の発表の順番とプロトコールの担当者を決定。
第2回ー8回 博士課程の院生による発表と全員での討論。
第9回-14回 修士課程の院生による発表と全員での討論。
第15回 総括。