幸せなしまい方PJ 調査報告アーカイブ

倫理学研究室ウェブサイト 幸せなしまい方PJ 調査報告アーカイブ

SMBC京大スタジオ「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」プロジェクト(幸せなしまい方PJ)では、人生の身じまいの段階において個々人の尊厳を保ち、ありたい姿を実現するための意思決定の支え方を考えます。

このページでは、国内外の先行研究の知見を整理する文献調査の成果を発信しています。

文献紹介

ケント・グリーンフィールド、『〈選択の神話〉――自由の国アメリカの不自由』、高橋洋訳(紀伊國屋書店、2012年)

概要
本書は「選択」に関する書籍です。私たちはどこに住むか、何を食べるか、誰と婚姻関係を結ぶかと言った事柄について日々選択しています。私たちは選択について①私たちは様々な事柄を自由に選択することができる、②自由な選択はそれ自体よいものである、③自由に行われた選択には責任があり、その結果を政府や法が補償する必要はない、といった前提を持ちがちですが、著者のグリーンフィールドはいずれの考えにも疑問の余地があると指摘し、人々によりよい選択をもたらすための方法について論じています。

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紹介者:立場貴文
更新日:2025年5月21日

井口高志、『認知症社会の希望はいかにひらかれるのか――ケア実践と本人の声をめぐる社会学的探求』(晃洋書房、2020年)

概要
本書は認知症に関する様々な実践を分析し、2000年以降の新しい認知症観である「その人らしさに寄り添う」考え方が介護・ケア実践の中でどのように扱われているかを描くものです。言説分析や、当事者団体、デイサービス職員などへの調査の中で、認知症の方を包摂する場作りや患者の意思の聞き取り、更には当事者団体の異議申し立てといった幅広いテーマに触れています。

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紹介者:沼田詩暖
更新日:2025年5月21日

松田純、堂囿俊彦、青田安史、天野ゆかり、宮下修一(編)『ケースで学ぶ 認知症ケアの倫理と法』(南山堂、2017年)

概要
本書は認知症の人へのケアを行う人々が遭遇する様々な問題について、倫理と法という原則に基づきつつ、多数の事例を用いて具体的に考察しています。認知症の人やその家族、介護者に生じる課題に対しては、「自律尊重」などの倫理原則がそのまま通用しない場合もあり、認知症の人は様々な場面で特別なケアを必要としています。

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紹介者:立場貴文
更新日:2025年5月21日

佐藤真一、権藤恭之(編)『よくわかる高齢者心理学』(ミネルヴァ書房、2016年)

概要
身近な高齢者に対して、あるいは歳を重ねた自分自身に対して、「なぜこんなに物事の処理が遅いんだろう」、「この間のことをもう忘れてしまうなんて」などと感じてしまうことは少なくないかもしれません。それでは、高齢者の心や認知にはどのような特徴があるのでしょうか。本書では、加齢による認知機能の変化や高齢者の心理について概説されています。本書によれば、老化をただ単に色々な能力が衰えることと捉えるのは一面的な理解でしかありません。心理学の研究では、高齢者には若年者とは違った心の働きがあり、その中にはポジティブな側面もあることがわかってきています。老いや加齢に対する否定的な見方は、このような高齢者心理学の知見から見直されてよいかもしれません。

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紹介者:松岡明香里
更新日:2025年5月21日

Marilyn Friedman, ‘Autonomy, Social Disruption, and Women’, in Catriona Mackenzie and Natalie Stoljar eds., Relational Autonomy : Feminist Essays on Autonomy, Agency, and the Social Self (Oxfrod: Oxford University Press, 2002), 35–51

概要
私たちは常に何かを選び続けながら生きています。人が何かを選び、決定する際に重要になるのが、自律という概念です。他の誰かや集団、社会から強制されることなく、自分自身の基準や価値観によってものごとを決める自律的なあり方は、私たちが自分らしく生きていくために確かに重要なことです。本論文は、自律の概念についてフェミニズムの観点から検討しています。個人を独立した原子として捉える伝統的な自律の解釈が抱える問題を指摘し、社会的関係に注目した関係的な自律の理解を提案しています。その上で、関係的な自律と関係の断絶について考察しています。

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紹介者:松岡明香里
更新日:2025年5月21日

安達未来『締め切りより早く提出されたレポートはなぜつまらないのか:「先延ばし」と「前倒し」の心理学』(光文社、2025年)

概要
皆さんは、夏休みの宿題をいつやっていましたか。もらってすぐ取りかかるタイプでしたか、それとも夏休みの終わり頃になってようやく始めるタイプでしたか。私たちは、宿題だけでなく、食器洗いや免許の更新、メールの返信など、大小さまざまなタスクに追われています。そして、そうしたタスクにどう向き合うかは、人によって大きく違います。締め切りギリギリでやる人もいれば、なるべく早めに片づける人もいます。本書では、心理学の知見に基づいて、先延ばしや前倒しの原因、それらと個人の性格や選好との関係が考察されています。両者の特徴を理解することで、過度な先延ばしや前倒しに対処し、よりよいタスクマネジメントの方法を身につけることができるかもしれません。

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紹介者:松岡明香里
更新日:2025年5月21日

杉本浩章、近藤克則、樋口京子「世帯の経済水準による終末期ケア格差」、『社会福祉学』52/1(2011年)、109–22頁

概要
本論文は、終末期のケアに関して、世帯の経済水準によってどのような格差が生じているかを1999年のデータに基づいて論じるものです。分析の結果として、経済水準が在宅介護を開始する時期や介護の内容そのものにも影響を与える可能性が示唆されています。

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紹介者:沼田詩暖
更新日:2025年5月21日

谷口豊、大塚忠義「老後生活費への不安感に関する定量的分析」、『生命保険論集』210(2020年)、67–92頁

概要
本論文は、多くの人が感じる老後の生活費の不安について分析するものです。ジニ係数を用いたシュミレーションに基づいて、高齢者の実際の暮らし向きがどのようなものとなるかを考察しています。分析の結果として、世代間の経済格差が高齢期になるほど拡大することが示唆されています。

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紹介者:沼田詩暖
更新日:2025年5月21日

E. Weathers, R. O’Caoimh, N. Cornally, C. Fitzgerald, T. Kearns, A. Coffey, E. Daly, R. O’Sullivan, C. McGlade, and D. W. Molloy, ‘Advance Care Planning: A Systematic Review of Randomised Controlled Trials Conducted with Older Adults’, Maturitas, 91 (2016), 101–9

概要
本論文は、高齢者を対象としたアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を実施した際の効果を、既存の文献の検討に基づいて分析したものです。結果として、終末期ケアの希望が文書化される率の向上、患者の意向が治療に反映される率の向上、患者の代理人や家族に対するポジティブな効果といった多くの利益をACPがもたらす可能性が示唆されています。しかし、対象論文は9件と少なく、今後より厳密な研究手法によってACPの効果が明らかにされることが期待されます。

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紹介者:樽谷なぎさ
更新日:2025年5月22日

橳島次郎『これからの死に方:葬送はどこまで自由か』(平凡社、2016年)

概要
本書は、生命倫理の専門家である著者が、死のあり方の自由について諸外国や日本の様々な事例の紹介を通じて論じた著作です。死にまつわる習俗や考え方が大きな転換点を迎えているという認識のもと、多様な遺体・遺骨の扱い方(散骨や自然葬、献体など)がわたしたちの社会でどこまで自由として認められるべきかという問いを中心的に論じています。この問いに対する結論として著者は、葬送の自由は死んでいく者と残される者の話し合いと納得に基づく共同的なプライバシー権として認められるべきではないかと提起しています。

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紹介者:鈴木英仁
更新日:2025年6月5日

山田慎也、土井浩(編)『無縁社会の葬儀と墓:死者との過去・現在・未来』(吉川弘文館、2022年) 第I部 新たな葬送への模索 

概要
本書は家の在り方の変化や少子高齢化の進む世の中で現れつつある、孤立死や無縁化
する遺体という課題を中心に据えて、葬儀や墓の問題に社会学的、民俗学的、歴史学的なアプローチを試みた論文集です。第I 部「新たな葬送への模索」では、現在進行中の問題として「新たな死の共同性」と「デジタル時代の弔い方」をテーマにした二本の論考と、近代以降の研究として「助葬制度」と「契約講」をテーマにした二本の論考から、新たな葬送の在り方やそれを支える人々の繋がりの在り方が模索されます。

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紹介者:坂本郁人
更新日:2025年6月5日

ピアーズ・スティール『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』、池村千秋訳(CEメディアハウス、2012年) 

概要

私たちはなぜ、やらなければいけないと分かっていることをつい先延ばしにしてしまうのでしょうか。本書は、カナダのカルガリー大学ビジネススクール教授で産業・組織心理学を専攻する著者が、心理学や行動経済学の知見をもとに、私たちが重要な課題を後回しにしてしまう理由を明らかにする本です。著者は、先延ばしは意志の弱さではなく、人間の進化や脳の仕組みに深く根ざした行動であると指摘します。また「先延ばし方程式」という考え方を用いて先延ばしのメカニズムを解き明かしつつ、実際に先延ばしを防ぐための具体的な対策も紹介しています。

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紹介者:松岡明香里
更新日:2025年6月19日