東洋文献文化学 インド古典学専修

ソームデーヴ・ヴァースデーヴァ 教授
インド哲学、ヨーガ、サンスクリット・プラークリット文学
天野 恭子 准教授
ヴェーダ文献学
タオ・パン 特定講師
インド・イラン文献学

インド古典学は、サンスクリットという古代インドの言語で残された文献を、じっくりと読み解くことを核とする学問です。最古のサンスクリット文献『リグ・ヴェーダ』は一万を超える詩節からなる神々への讃歌集で、数千年の間、耳から聞いたものを完全に記憶して次の世代に伝えるというやり方で伝承されてきました。ただ一つの音の崩れも間違いも許さない、非常に厳密な態度で伝承されてきたこれらの文献は、数千年前の言葉をそのまま残す宝の山で、言語学的にも、文化・宗教の面でも非常に重要な資料です。サンスクリットは文法が複雑で非常に難しい言語ですが、勉強すれば宝の山に分け入る鍵を手に入れることができます。そこから先には、どこまでも深いインド思想、インド文化の世界が広がっています。

インドに伝わるのは宗教文献だけでなく、『マハーバーラタ』などの叙事詩、哲学書、戯曲や文学作品など、ジャンルは多岐に亘ります。『アーユルヴェーダ』などの医学や、ゼロの概念を初めて発見したインド数学もよく知られています。これらすべてがインド古典学の研究対象です。これらの背景にあるインドの思想に触れ、自己や宇宙との向き合い方に、日本や東洋の精神の源流を感じることもあるでしょう。
日本のインド古典学は、実は世界をリードする学問分野です。難しい文献に向き合いこつこつと読み続ける営みを、日本のインド学は大切に守ってきたことから、世界中で参照され続けるような重要な研究をたくさん生み出してきました。研究者の人数も多くない所謂マイナー分野ではありますが、それだけに、世界の第一線で自分だけのオンリーワンの研究ができるチャンスがあります。

最近の卒業論文

  • ・ダルマ文献における婦女財の考察
  • ・『実利論』における「林住族」の扱いについて

最近の修士論文

  • ・黒ヤジュルヴェーダ文献におけるマヌ
  • ・Māṇḍūkya-upaniṣadとGauḍapāda-kārikā第1章Śaṅkara註によるAdvaita―omとbrahmanにおける原因と結果の不異―
  • ・モークシォーパーヤにおける鴉の表象
  • ・罪と罰の相関性―古代インドにおける地獄の概念―

最近の博士論文

  • ・The Evolution of “Logical” Rhetorical Figures, with a Critical Edition of Selected Sections of the Alaṃkāraratnākara
  • ・The Triśatībhāṣya, an Anonymous Commentary on the Triśatī of Śrīdhara: A Study, Critical Edition of the Text, English Translation with Mathematical Notes and Appendices
  • ・The Iconography of Viśvarūpa Viṣṇu: with a Special Focus on Sculptures Produced in Northern India during the Ancient Times and the Medieval Period
  • ・黒Yajurveda散文におけるSattra儀礼ー行者たちの1年の共同生活ー

学生研究室の情景(2021年5月)

研究室懇親会(2018年4月)

ジュニア・オープン・キャンパスのポスターセッション用のポスター(学生製作)

文学部受験生向けメッセージ

みなさんはインドというと何を思い浮かべますか?ガンジス川で多くの人が沐浴している光景、牛が大切にされ街の中でも寝そべっている様子。あるいは森の中で行者がヨガを実践しているイメージを思い浮かべる人もいるかもしれません。インドは仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教などを生み出した、宗教的な土壌が非常に豊かな国です。最古の宗教文献はリグヴェーダと呼ばれる神々への讃歌集で、今から3千年以上も前に作られました。その中には、自然や社会の運行を司る神々への信仰を中心に、世界はどのように成り立っているのか、人の正しい生き方とは何なのか、人は死んだらどこへ行くのか、そのような問いが生まれそれにまつわる思索が行われていたことが見てとれます。そのような思索は連綿と受け継がれ、様々な宗教を生み出し、深い哲学を発展させ、インドの歴史を豊かな精神文化で彩ったのです。

現代の日本人にとってインドはそれほど身近に感じられないかもしれません。しかしインドの思想を勉強し、その精神世界に触れるほどに、インドの思想や哲学は私達の心の故郷であると感じたり、共感したりすることがあります。インド古典学の分野では、インドの思想や哲学、文学を、サンスクリット原文で読む力を養います。研究者はサンスクリット原文を深く理解し論じることを、研究の核としています。サンスクリットは文法が複雑でとても難しい言語ですが、原文を通じてインドの精神文化に触れることは、得難い体験です。大学でしか触れることのできない言語や研究方法に、ぜひ興味を持ってみて欲しいと思います。

大学院研究科受験生向けメッセージ

インド古典学専修は、従来あった「インド哲学史」専修と「サンスクリット語学サンスクリット文学」専修を統合して,2004年度より開設された専修です。インド古典学の対象となる文献は、バラモン教、ヒンドゥー教、ジャイナ教などの宗教文献だけではなく、その土壌をもとに発展した数々の哲学文献、マハーバーラタなどの叙事詩、技巧をこらした美文詩、あるいは医学、数学、天文学といった科学文献なども含みます。それらの文献は、主にはサンスクリットで書かれていますが、より古い時代のヴェーダの言語や、後の時代の中期インド諸語などに連なり、約3千年前の古代から連綿と続く、豊かな資料群を提供しています。この様々な言語資料の背景に、多様な文化と深い哲学が広がっている大海原、それがインド古典学のフィールドです。

本専修の教授、ヴァースデーヴァはシヴァ教文献及び古典文学とその理論(詩論・修辞学等)を専門とし, 近年はインド哲学の新論理学の研究に力を注いでいます。准教授の天野は、ヴェーダの言語研究を軸に、ヴェーダ文献成立の背景となる社会の変遷と、儀礼・思想の展開を追っています。講師の潘は所謂シルクロードの全域をカバーする広い視座で研究し、特にトカラ語やインド・イラン語の言語学に注力しています。このように様々な時代の様々な文献を対象に、様々な視座から研究している教員、ポスドクや大学院生が、議論の機会を持ちながら共に研究を行っており、インドの思想・文化・社会を広い視野で見、理解を深めることができる、理想的な研究環境であると言えます。本専修の教員は海外研究機関、海外研究者とのネットワークも緊密で、世界中から研究者が訪れ交流しています。このような環境の中で、大学院生や学生は英語でのコミュニケーションや国際的な研究現場での振る舞いを自然と身に付けることができます。

サンスクリットは奥が深く、大学院の期間はまだまだ修行が続きますが、一方で研究の深みに触れて新しい局面に目が開かれる時期でもあります。新しい景色を見に、ぜひインド古典学の修士課程に挑戦して欲しいと思います。