考古学研究室案内(学部向け)

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考古学は,過去の人間が作り,使用した「物」を材料に,過去の人間の行動を研究する学問である。材料となる「物」は,主に発掘調査によって獲得する。したがって,考古学の研究を志す者は,まず,「物」から過去の人間の「行動」を復原する手法や知識,発掘調査によって必要な情報を獲得する手法や知識などを身につける必要がある。

考古学の研究対象は,人間生活の痕跡さえあれば,時間的・空間的な限定はない。厳密な発掘調査によって,さまざまな情報をもつ「物」=データを集める。その「物」のあり方から直接「物質文化」を認識し,背後にある「精神文化」を読みとり,それらの個々の研究成果の統合をめざす。しかし,出発点となる厳密な発掘調査,「物」の観察・分析を系統的に行うことすら容易ではない。「物」を形態・製作技術・機能などで分類し(型式分類,形態分類),各々のカテゴリーの時間的・空間的組み合わせを,定性的かつ定量的に検討した結果から,過去像を推察するのが考古学のオーソドックスな手法である。

しかし,現代の考古学では,たとえば動植物遺体の遺伝子観察など,科学的でミクロな分析も,過去像の復原に大きな成果をもたらしつつある。考古学を学ぶ者は,自らその分析を実施する必要はない。だが,少なくとも,生物学・化学・物理学・地質学・土壌学など,自然科学分野の分析技術やその最新成果に深い関心を払う必要がある。資料の分析を自然科学者に託すとき,一体,何を求めるのかは考古学者の責任である。また,製作者・使用者の直接の証言を得られない考古資料を解釈する上で,歴史学・民俗学・民族学・文化人類学・地理学・社会学など,他の人文・社会科学分野の知識も学ぶ必要がある。

日本以外の地域を研究対象とする場合には,当然,その地域の言語を修得する必要がある。しかし,日本考古学を専攻する場合でも,ヨーロッパの言語,少なくとも英語力を鍛えることが大切である。外国の研究者の来日も頻繁となり,国際学会に参加して共同研究を進める機会も増えてくるからである。そうした集会や交流の場で,日常の研究成果を語り,他国の研究者の方法や成果に学ぶことは有意義であるばかりでなく,今後,避けて通れなくなるだろう。

考古学専修を希望する学生は,以下の点にも留意されたい。

(1) 考古学は「物」を資料とする科学だから,「物」に親しみを持たねばならない。「物」についての観察や知識を広め,未知の「物」に対面した時にも,その材質や作り方,使い方を豊かに想像できるように訓練する必要がある。

(2) 発掘は研究の基礎資料を獲得する場であるだけでなく,仮説検証の場,新たな問題を掘り起こす場でもある。発掘は遺跡の破壊だと言われるように,繰り返しのきかない実験でもある。当然,実施には細心の気配りが必要で,鋭い注意力を養う必要がある。また,発掘は知的な共同作業なので,体力だけでなく,バランスのとれた協調性や統率力も必要である。

(3) 研究者の「眼」を養うには,「体」で覚えるのが早道である。まとまった休暇期間には,できる限り発掘に参加するのがよい。必ずしも条件のよくない合宿生活に耐える精神力を身につけるためにも,日頃から生活のリズムを整える努力をされたい。

(4) 「物」を観察し,必要なデータをとる基礎訓練は考古学実習で身につける。三回生で自分の研究対象を見つけ,四回生で卒業論文を提出するためには,考古学実習を二回生のうちに履修するのが望ましい。

(京都大学文学部『文学部専修案内』(2002年)35頁を一部修正して転載したものです)


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