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グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成

プログラム内容の紹介

20世紀後半から始まったグローバリゼーションと呼ばれる地球規模での瞬時情報伝達社会の到来は、その一元化への基盤となった科学技術の進歩さらには政治経済的な変化をも加えて、地域を問わず現代世界にいきる人びとの生活様式を大きく変え、人間の生に対する意味づけ、さらには価値観にも激しい転換を迫っている。いな、その転換はいたる所できしみを伴い、無数の人びとがうめき声さえあげつつある。

世界規模でみられる人類社会が経験する以上の激しい移行の過程は、歴史学、哲学、文学を中心に、人間が個人としてまた集団としていかに合理的な行動をとるか、さらには尊厳ある生を営むことができるかという、人の思想、文化、行動の意味を時間軸に沿って考えてきた人文学のあり方にも、従来の研究方法への反省を生み出す。19世紀後半以来、人文学は個別の国あるいは地域に焦点を当て、それぞれが持つ文化的特性を明らかにするよう努めてきた。それは地域の特徴の解明に重点をおくという、地域限定的研究方法とも呼ぶべきものであった。しかし、グローバル化が世界を時間的に狭め、政治経済の動向、人々の意識が瞬時に連動しあうものとなりつつあるとき、人文学もまた自身の視野を広げ、「地球市民化」というこれまで希薄であった新たな人間理解を、研究の中心的視座に加えなければならないであろう。個別性を持つ地域社会に係わる研究、あるいはそこでの文化主体を分析対象にすえた既往の研究を否定する必要はない。しかし、そうした個別研究を全体に結びつけ、地球規模で人間存在の諸相を総体として理解し、豊かな人間のあり方を人類として展望する総合的な人文学的知を確立する必要がある。とくにその総合を基礎として、今日のグローバル化の波で苦闘し煩悶する人間の生き方の多様性また文化の多元性を、人類社会という視点から意義づけていく努力が求められているのである。おそらくそこでは自由と寛容の精神の新しい位置づけが、基礎的条件となるであろう。

本プログラムは、以上の激しい移行過程にある現代世界を批判的に再検討し、新たな指針を模索するというグローバル化時代の総合的、かつ多元的な人文学的知の形成という課題に、歴史学を中心に、哲学、文学研究を組み合わせて挑むことを最大の目的とする。研究の上では歴史時間軸に沿った実証的研究を基礎とする。人類の歴史を通してみるとき、複数地域の人々の生活基盤が結びつくという意味の広域的集合化は、繰り返し各地域にさらには大陸規模で起こっていた。しかもその集合化に共通してみられたのは、広域的な結合がもたらす政治権力や支配文化のもたらす一元化と、地域社会・文化の多元性との対立する過程であった。ただ同時に、長い時間を通してみるとき、そうした一元化と多元性が複雑に融合しながら新たな社会様式、文化を創り出していく過程も検出できる。本プログラムは、人類史にみられたそうした一元化と多元性の葛藤と変容という切り口を通して、広域的集合化がたどる歴史的、文化的、思想的変化の過程と、その変化に潜んだダイナミズムの解明を目指す。過去の広域的集合化の厳密な実証的解明を通して、今日複雑な対立や亀裂に再びゆがむ現代世界の直面する思想的課題、また文化的問題の歴史的起源、さらには今日的意味を探ると共に、さらに進んで、人類がたえず希求してきた「調和ある多様性」の基盤をあきらかにすることを目指す。その二方向の探求は、グローバル化する現代世界に向き合う人文学の固有の課題であるばかりか、グローバル化の基盤となった自然科学分野の進歩を人間の福祉につなげていく人間理性の再構築という、人類社会が抱えるいま一つの大きな課題に対して人文学が独自の貢献を果たそうとする試みでもある。