思想家紹介 清沢満之

清沢満之  文久3(1863)-明治36(1903)

生 涯

文久3年、尾張藩に生まれる。東京帝国大学卒。明治21年、京都府尋常中学校の校長に赴任するが、辞任して禁欲自戒の生 活に入る。明治25年、『宗教哲学骸骨』刊。宗門改革のため雑誌「教界時言」を発刊し一時僧籍を剥奪されるが、僧籍を回復し真宗大学初代学長に就任。明治 34年、雑誌「精神界」を発行。明治36年、愛知県で死去。享年41歳。

思 想

満之の生涯は苦難な禁欲自戒の「実験」の生涯であった。その中からたどりついた心の置き所が精神主義であった。精神主義 とは無限大悲の如来に依拠する広大な他力信仰を根本に据え置いて世に処する実行主義、活動主義であり、内観主義、主観主義、満足主義、自由主義、個人主 義、全責任主義、他力主義などの語をもって表される。そこには他力信仰によって自己の内面を凝察し、個の徹底的な内的沈潜により安心立命が全うされるとす る近代仏教の先覚者の発想がある。また清沢が西洋哲学を咀嚼し踏まえていたことも彼の宗教哲学を独自なものにしている。
現在にいたるまで清沢は さまざまに批判されてきた思想家でもある。たとえば天皇制に無批判に順応したと批判されたり、清沢の宗教論は近代的知識人の宗教に過ぎず、一般の人々には 無関係だと批判されたりしてきた。このように清沢満之の生涯、および哲学は現在もなおさまざまな問題を我々に提起している。

基 本 文 献

(1) 清 沢 の テ キ ス ト

A 全集

  • 大谷大学編『清沢満之全集』、岩波書店、2002年。
  • 暁烏敏・西村見暁編『清沢満之全集』全8巻、法蔵館、1953-56年。

B 全集以外の清沢のテキスト

  • 松原祐善・寺川俊昭編『定本清沢満之文集』、法蔵館、1979年。
  • 『新島襄 植村正久 清沢満之 綱島梁川集』(明治文学全集46)、筑摩書房、1977年。
    『宗教哲学骸骨』や精神主義関係の論文、および清沢の講話や日記など、主要な清沢の文書が収められている。「解題」では清沢の思想がまとめられている。

C 清沢のテキストのなかで、現代語に訳されているもの

  • 藤田正勝訳『現代語訳 宗教哲学骸骨』、法蔵館、2002年。
  • 藤田正勝訳『現代語訳他力門哲学骸骨』、法蔵館、2003年。
  • 今村仁司編訳『現代語訳清沢満之語録』、岩波現代文庫、2001年。
  • 橋本峰雄編訳『清沢満之・鈴木大拙』(日本の名著43)、中央公論社、1971年。
    『宗教哲学骸骨』、『在床懺悔録』、『教界時言』、『精神主義』を現代語で読める。清沢の生涯と思想をまとめた解説が入門書として最適。清沢の思想が「哲学」的側面から解説されている。
(2)清沢の人と思想に関する文献

清沢に関する論文は多数あるが、単行本はまだ少ないと言わざるをえない。ここでは初学者が清沢に関してまとまった情報を得られるように単行本だけを取り上げた。

  • 安冨信哉、藤田正勝編『清沢満之――その人と思想』、法蔵館、2002年。
    「あとがき」にもあるように、これまでの清沢研究では宗門人と しての清沢が論じられてきたが、この著作では宗教学、哲学、思想史学、教育学、真宗学といったさまざまな方面から清沢にアプローチした論文が集められてい る。文章も比較的平明であり入門書として最適なものの一つである。
  • 脇本平也『評伝 清沢満之』、法蔵館、昭和57年。
    清沢の生涯と思想を綿密に論じている。思想に関しては清沢からの引用を多用しながら要所要所で説明を加えている。
  • 安冨信哉『清沢満之と個の思想』、法蔵館、1999年。
    著者の学位論文に補足を加えたものであり、きわめて学術的かつ詳細である。表題のとおり、清沢の思想を「個」という視点から論じている。
  • 寺川俊昭『清沢満之論』、文栄堂書店、1973年。
    宗教社会学を専攻した著者による研究書。清沢の教団との関わりや、清沢の信念について論じられている。
  • 久木幸男『検証 清沢満之批判』、法蔵館、1995年。
    表題のとおり、清沢に対してなされてきた批判のうち、主要なものについて実証的に検討されている。(たとえば清沢と天皇制、清沢と社会問題など。)そのため史料が多く掲出されている。清沢批判が的を射ているか否か検証したい人にはお勧め。
  • 観照社編『清沢満之』(伝記叢書144)、大空社、1994年。
    この本は清沢没後25年忌を記念して、清沢の弟子や友人など12名の文章を集めたものである。清沢に身近に接した人々が、それぞれの視点から清沢に関する思い出や事跡を語っている。
  • 今村仁司『清沢満之の思想』、人文書院、2003年。
    本書では、清沢満之を仏教者としてではなく、あくまで哲学者として捉え返 し、「精神主義」「目覚めの倫理学」「縁起」などの重要概念が再検討されている。その際、単に清沢の思索の跡を辿り直すのみならず、そこへ外部から「解読 コード」として哲学的諸概念を導入し衝突させるという方法で、清沢の思想に伏在する「イデー」あるいは「可能性の芽」を顕現へと齎し内在的に展開せしめ、 その現代的意義が探求されている。
  • 今村仁司『清沢満之と哲学』、岩波書店、2004年。
    本書では、清沢の「有限・無限」論や「有機組織論」の孕む「他者問題」および「社会性」に関する原理的展開の示唆が汲み取られるとともに、それが可能性なかぎり引き伸ばされている。
    本 書第一部では、あくまで清沢のテキストに即する形で主要概念を中心に分析がなされ、清沢の哲学思想を可能なかぎり忠実に再構成することにより、そのなかに 散種されている基本着想・構想が発掘されている。第二部では、発掘された芽を引き伸ばすべく解釈的展開が遂行され、無限他力的倫理あるいは社会性の可能性 が探求されている。
(熊谷記、平成15年4月、平成19年10月改訂)

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