学部専修案内

東洋文化学系 中国哲学史専修
講座担当教官
教授 宇佐美文理(中国近世思想史、とくに藝術理論史)

講座案内
中国哲学史は,中国人の思索の歩みを研究する学問である。
よく中国哲学史と呼ぶのがよいか,それとも中国思想史と称するほうがよいかが議論されることからもわかるように,中国哲学は西洋哲学とは内容をかなり異にする。形而上学や認識論が中心課題となることはそれほど多くなく,論理学もまた発達しなかった。しかしそれは,中国人が世界や人生について充分な思索を行わなかったということではない。彼らもそれらについて,究めつくせないほどの思想的業績を遺しているのである。ただそれが,西洋とは全く思考様式や発想を異にする中国独自のものであったということである。その点をまず心に留めておいてもらいたい。
平凡ながら,中国人が何をどのように考えたかを知ること,中国哲学史研究はこの一事につきる。したがって,一切の先入観を捨て,中国人の立場に立ってその思考を跡づけることがまず何よりも必要である。西洋哲学の概念や類型にあてはめて事足れりとすることは,厳に戒めなければならない。もっともそれは,中国哲学の研究に西洋哲学の知識が必要ないことを意味するのではむろんない。中国の哲学を正確に分析するためには,西洋哲学の知識はむしろ不可欠である。ただそれを機械的にあてはめてはならないと言うのである。諸君は積極的に西洋哲学,さらにはインド哲学・宗教学・仏教学・美学等についても勉強してほしい。
中国人の立場に立ってものを考えるためには,古典文献、すなわちいわゆる漢文が正確に読めることが何よりも必要である。学生にとって,漢文講読力修得が第一の肝要事である。したがって本専修では,演習,講読に最も力を注いでいる。その方法は,清朝考証学を踏まえた文献実証学であり,訓詁と典故とを重視する。一字一句を忽せにしない詳細な読みと出典調べが要求される。一見哲学とは無関係の,無味乾燥な作業と思うかもしれないが,どうか我慢してほしい。それが哲学研究の基礎となるのだから。教材の中心は経学関係の書である。経学は中国哲学の根幹であり,経学を全く抜きにした思想家は存在しない。
道・仏教家の場合でも,経学がその素養にある。故に中国哲学を研究する者は,その専攻いかんにかかわらずまず経学を学んでおかなくてはならない。経学演習は必修課目と思ってもらってよい。
しかし,経学が中国哲学の全てではない。仏教や道教はむろんのこと,最古の甲骨文から現代の新儒家や社会主義思想まで,中国哲学の稔りは豊かである。若いうちは自らを限定せず,できるだけ広く関心をもっていてほしい。私たちは,従来の経学や儒教のみの哲学史ではいけないと思っている。仏教や道教関係の講義も設けてあるので,それらもなるべく聴講してほしい。
あと一つ注文を言えば,できるだけ早いうちに中国語を習得しておくこと。学術の国際交流の上からも欠かせない。
日本人にとって,中国は文化の母とも言える。色々書いたが,中国語や漢文をこれまでとくに学習していなくとも構わない。意欲ある諸君の専修を待望する。なお卒業生と院生を中心として「京都大学中国哲学史研究会」が組織され,その機関誌として「中国思想史研究」を刊行している。