申請書

アジア親密圏/公共圏研究教育センター

Asian Research and Education Center for the Intimate and the Public

1.必要性

【目的・目標】

現在、世界は大きな転換期に差し掛かっている。20世紀は東西対立と南北格差を背景に、先進国に「豊かな社会」の安定と繁栄を生み出したが、東西対立の消滅をきっかけとした新自由主義の席巻と「南」諸国の成長により、20世紀に造られたあらゆる制度が揺らぎ、新たな秩序の形成に向けた胎動が始まっている。

現在進行している転換には二つの特徴がある。第一の点は、その転換は公的世界のみに留まらず、私的領域と言われてきた家族や個人の生活の深部にまで入り込み、公私の境界を揺るがせ、両領域を巻き込んだマクロかつミクロな変動を引き起こしていることである。第二の点は、その転換はグローバルなものであり、世界のどんな小さな地域で起きている変化も、他の地域で起きている変化と無縁ではありえないということである。

本センターは、第一の点を「親密圏と公共圏の再編成」ととらえ、第二の点については「アジア」から接近するという方法をとることにより、この巨大な変動のロジックの解明をめざす学問分野を構築し推進することをその目的とする。第一の点の追究のためには従来の学問分野の縦割りを超える学際的総合、第二の点の追究のためにはグローバルな研究協力が必要なので、本センターは学際的かつグローバルな連携の促進を最大の責務とする。そしてその連携の上に立った研究活動と教育活動を推進もしくは促進し、成果発表と情報発信を行って、さらに連携を強化していく。

【必要性・緊急性】

この巨大な転換期にあって、世界の各地域が課題に直面しているが、経済成長の著しいアジアも例外ではない。東アジアの極低出生率と高い自殺率は、この地域の社会が自らの再生産に失敗した社会、持続できない社会となったことを示している。ヨーロッパでは福祉国家の縮減が起きているが、「圧縮された近代」であるアジア諸国は、福祉国家を建設する前に世界経済危機に直面した。経済成長から福祉国家建設へ、という社会発展のシナリオにはもはや従えないのか、それでもこの道を進むにはどのような方策があり得るのか。社会保障制度改革を迫られる日本も含め、アジア諸国がめざすべき方向性の検討は喫緊の課題である。

京都大学文学研究科は、研究科横断的なGCOE「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」の活動を通じて、この課題に取り組んできた。福祉国家研究、家族研究、国際移動研究、労働研究、メディア研究、コミュニティ研究という、従来は異なる研究領域とみなされていた分野の研究者が学際的共同研究を続けることにより、相互のつながりや全体を貫くロジックが見えてきて、ひとつの統合された学問分野がまさに生成しつつある。また、アジアを中心とする世界の大学・研究機関とのグローバルな連携関係も広げてきており、2011年11月時点で、世界20社会の28機関(アジア11社会15機関、ヨーロッパ7社会10機関、北米2社会3機関)との間にパートナーシップを形成した。これらのパートナー拠点と京都大学の研究者は、2011年11月26日、韓国のソウル国立大学にて Research Consortium for the Intimate and the Public を結成した。ここまで構築してきた学際的かつグローバルな連携をGCOE終了以後も継続して維持し発展させていくために、その結節点としての役割を果たすセンターを京都大学文学研究科内に設立する必要がある。

【独創性・新規性等】

本センターの独創性は、第一に親密圏と公共圏をめぐる新たな研究領域を扱うことにある。「親密性(intimacy)」とは、ケア・性愛などを含む身体的・感情的に近しい関係をさすが、「私」が「公」の反対概念であるのに対して、「親密性」は必ずしもそうではない。Intimate StateIntimate LaborsIntimate Encountersといったタイトルの書籍が相次いで出版されているように、ハバーマスが生活世界と呼んだような領域が、グローバルな社会システムの再編成に否応なく巻き込まれて変容している状況をダイナミックにとらえられる概念として、近年世界的に広く用いられている。本センターは、この新しい概念を用いることにより、人文学および社会研究の諸分野の研究者を学際的につなぎ、新しい研究領域を構築する役割を果たす。

本センターはまた、GCOEが構築してきたグローバルな学術ネットワークであるResearch Consortium for the Intimate and the Publicの全面的バックアップを得ている。これは従来の欧米重視型ではなくアジアに重点を置いた、しかしアジアに閉じることのないグローバルネットワークである。この国際連携を基盤に、アジアの視点に立った研究と、アジア地域を中心とした国際的教育連携を推進する。

また、学内的には、京都大学にはアジア研究の国際的拠点と言えるような研究単位がすでにいくつかあるが、本センターは、親密圏/公共圏というテーマのみならず、教育を重要な責務とするという点において他と異なっている。本センターはGCOE、京都エラスムス計画、中国・韓国研修等、文学研究科が構築してきたグローバル教育を継承してその運営を担うが、そればかりではない。文学研究科は、G30において「京都で学ぶアジア学・日本学」を担当し、学内のアジア研究・日本研究を組織化して大学院および学部教育に活かす役割を果たしてきたので、本センターはその役割も継承していくこととなる。

【第2期中期目標及び中期計画との関連性】

部局行動計画に、「本学全体の研究機能の深化と拡充を目的として、1)文学部・文学研究科の特色ある「学問体系の構築」として「多元統合人文学」の構築に取り組む、また、2)新たな「学術文化の創成」として「アジア親密圏/公共圏研究」に基づく学術文化の創成に取り組む。「アジア親密圏/公共圏研究センター」設置要望に向けた検討を行う。」とある。

2.取組内容

(1) 親密圏/公共圏研究のための学際的連携の推進

本センターは、標記研究推進のため、文学研究科内の系横断的な学際的連携推進、および学内の研究科横断的な学際的連携推進のための事務局としての役割を果たす。GCOEの基盤部局としてすでに連携の実績のある人間・環境学研究科、教育学研究科、農学研究科、経済学研究科、法学研究科、人文科学研究所、地域研究統合情報センターを当面の連携先とする。

(2) 親密圏/公共圏研究のためのグローバルな連携の推進

本センターは、標記研究推進のため、アジアを中心とする世界の大学・研究機関とのグローバルな連携推進のための事務局としての役割を果たす。GCOEの海外パートナー拠点としてすでに連携の実績のある世界20社会の28機関(アジア11社会15機関、ヨーロッパ7社会10機関、北米2社会3機関)の研究者が設立したResearch Consortium for the Intimate and the Public (以下、コンソーシアムと記す)との関係を軸に、さらにグローバルな連携を発展させていく。

(3) 学際的かつグローバルな連携による親密圏/公共圏研究の推進と促進

本センターは、(1)と(2)により構築した連携を基盤として、国際共同研究プロジェクトを遂行する、もしくは遂行を支援する。当面予定しているプロジェクトは、アジアの重要業績の収集・翻訳・出版、アジア家族比較調査、および理論、社会政策、国際移動、労働、コミュニティ、メディア、家族法などに関するもの。

(4) 学際的かつグローバルな連携による親密圏/公共圏研究に関する教育の推進と促進

本センターは、(1)と(2)により構築した連携を基盤として、国際連携教育プログラムを遂行する、もしくは遂行を支援する。当面予定しているプログラムは、語学研修を中心とした学生派遣(中国・韓国)、招聘教員によるオムニバス授業、東アジア学生ワークショップ(主に学部生対象)、次世代グローバルワークショップ(院生・若手研究者)、留学生を対象としたアジア研究・日本研究関連科目の提供など。

(5) 学際的かつグローバルな連携による親密圏/公共圏研究の成果発表

本センターは、コンソーシアムのメンバーを含んだ出版委員会を組織し、(3)の成果を、英語および日本語の書籍として出版する。また国際シンポジウム・ワークショップなどを開催する。

(6) 学際的かつグローバルな連携による親密圏/公共圏研究に関する情報発信

本センターは、ウェブサイトなどを通じ、親密圏/公共圏研究に関する情報発信を行い、同分野の研究および教育の便宜を図ると共に、学際的かつグローバルな連携の維持と発展に寄与する。

3.実現に向けた実施体制等

【実施体制】

センターの管理運営に関する重要事項を審議するため,他研究科教員やコンソーシアムの研究者を含めた運営委員会を置く。センターの運営に関する事項の実施のため,実行委員会を置く。また、センターが学際的かつグローバルな連携推進のための事務局としての活動を行うため、外国語に堪能なコーディネーターの雇用を必要とする。

4.波及効果等(学問的効果、社会的効果、改善効果等)

学問的効果は、親密圏と公共圏をキーワードとした新しい学際的研究領域の確立にある。同時にグローバル教育によってその新たな領域の研究を推進していく担い手を養成する。

社会的効果は、グローバルな研究連携により、アジア諸国がめざすべき方向性についての学問的合意を形成し、政府および市民社会に提案していくことにある。また、グローバル教育の実践により、アジア版エラスムス計画のようなアジア域内の教育連携のモデルを示すことができる。

また、本センターが調整役となることにより、大学内の各部局でばらばらに行われているグローバル教育やアジア研究・日本研究を組織化し効率的に利用できるようにするという改善効果も期待できる。